Vol.1 No.3 2008
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研究論文−183 Synthesiology Vol.1 No.3(2008)1 研究の目的有機ナノチューブは、石鹸分子のように1つの分子中に水に溶けやすい部分(親水部)と油に溶けやすい部分(疎水部)を持つ両親媒性分子が自発的に集まること(自己集合と呼ぶ)によって形成する中空繊維状の物質である。有機ナノチューブのサイズは用いる分子によって異なるが、一般的には内径10~200 nm、外径40~1000 nm、長さ数~数100 μmである[1]。両親媒性分子はその親水部を外側に向けた二分子膜構造を形成し、円筒層状に重なった膜構造をしているため、水への分散性が良い(図1)。ブドウ糖分子が環状に6~8個つながって構成されるシクロデキストリンと呼ばれる環状分子は、食品分野、医薬品用、家庭用品など様々な分野で広く利用されている。その中空内孔に様々な有機低分子を取り込むことで、不安定な物質を安定化させたり、医薬や香料をゆっくりと放出したり、水に溶けにくい物質を溶解させたりする機能を持っている[2]。一方、有機ナノチューブはシクロデキストリンより10倍以上大きな中空内孔を持っているため、シクロデキストリンでは取り込むことができない大きな物質、例えば、タンパク質、核酸、ウイルス、金属ナノ粒子などを取り込むことが可能である。我々は、有機ナノチューブを用いて、1~20 nm程度の大きさをもつ金ナノ粒子[3][4] や直径12 nmの球状タンパク質(フェリチン)[5]を取り込むことに成功している(図2)。これらのことから、有機ナノチューブ材料が農業、食品、健康、医療、環境等の広い分野で用途開発されることにより、それぞれの分野で競争力のある新たな製品となることが期待されている。1996年にノーベル化学賞の受賞成果となったフラーレン(1984年)[6] と、その後に発見されたカーボンナノチューブ(1991年)[7]は、その構造と特性からナノテクノロジーの代表的な革新材料として注目され、精力的に実用化へ向けた研究開発が進められている。一方、有機ナノチューブは、カーボンナノチューブより前の1984年に見出されている[8]−[10]にもかかわらず、未だに実用化に至っていない。その主な要因は、カーボンナノチューブでは実現されている量産化が実現されていないこと、そのために種々の分野での既存材料との比較や用途開発が進んでいないことである。そこで、この課題を解決することができれば、有機ナノチュー研究論文 有機ナノチューブは両親媒性分子が溶媒中で自己集合化して形成する中空繊維状の物質であり、その内部にナノ微粒子やタンパク質等を包接することができることから、幅広い分野への応用が期待されている。有機ナノチューブを実用化するために、大量合成、用途、価格、安全性等の種々の条件を満たす戦略的なシナリオを立案し、分子設計・合成技術と自己集合化技術の統合により、最適な有機ナノチューブ合成用分子を設計・合成するとともに、有機ナノチューブの大量合成法を開発した。実用化へ向けた有機ナノチューブの大量合成方法開発ー 分子設計・合成技術と安全性評価の統合により市場競争力のある材料へ ー浅川 真澄*、青柳 将、亀田 直弘、小木曽 真樹、増田 光俊、南川 博之、清水 敏美産業技術総合研究所 ナノチューブ応用研究センター 〒305-8565 つくば市東1-1-1 つくば中央第5 産総研つくばセンター *E-mail : 両親媒性分子親水性疎水性有機ナノチューブ図1 有機ナノチューブ構造形成模式図(14)−外径=1-3 nm外径=12 nm外径=15-20 nmEnergy/ keVFeKaCuKa7896図2 有機ナノチューブ内部に大きさの異なる金ナノ粒子を取り込んだ様子(左、中)、球状タンパク質フェリチンが取り込まれた様子(右)を示す電子顕微鏡写真
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