Vol.1 No.2 2008
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インタビュー:トヨタ自動車グループにおける基礎研究から製品化への流れについて−146 Synthesiology Vol.1 No.2(2008)融合領域で、「そもそも僕らは何を目指すのか」ということを基に、高い目標を掲げていくことでいろいろなアイデアを出し合っていけるんじゃないかと思うんです。研究成果を統合するときに乗り越えなければいけないバリア赤松 統合的な研究のバリアは何だとお考えですか。そもそも先端研究の人は先行開発の人のものの見方が理解できない、ということになるんでしょうか。 梅山 先端研究の人と先行開発の人が話し合うとき、使っている言葉が全然違う人達だと、お互いに映るみたいですね。例えば、研究のテーマ名を言って、「え、それも理解できないのか」と思う研究者と、「小難しく、わからないように言っている」という先行技術者との対戦(笑)。それが壁といえば壁。お互いの言葉の理解がまず壁だと、私は非常に強く感じますね。でも、これはどこにでもある話で、例えば“研究開発”といった瞬間に、それの意味づけは赤松さんと私では違うと思うんです。1つの言葉に頼るのではなく、「何々をどういうところにどうすること」というふうに、目的とタスクに置き換えて言わないと通じないんじゃないかと思うんです。 赤松 そうですね。ビジョンを示したロードマップみたいなものをつくることも1つの工夫ですね。ゴールを共有化することで、同じ方向を向いて、かつ同じ言葉でしゃべれるようになる、そういうふうに考えたらいいということですね。梅山 ええ。なかなか同じ言葉というのはないから、それを何回か言い直して、「それはこういう意味だよね」と念を押しながら、最後は共通語としての言葉が、先行と先端の各々のチームの間ででき上がってくると思うんです。何を目指すんだ、どうするんだ、どこまでやるんだ、そういうところの基本的な握りがアイコンタクトみたいになって、スポーツじゃないですけど、わかるようになるのが一番いいですね。そうすると、「あうんの世界」ですから、これは勢いがドンとついてくるように思いますね。技術を目利きして引っ張り込む赤松 バリアを乗り越えるための研究管理者の存在も重要ですね。トヨタ自動車のチーフエンジニア制度は大変有名ですね。梅山 車をつくるときに、いろいろな部品をコーディネートして、車に仕立てあげていくためのチーフエンジニアがいます。例えばエンジンはいいものができた、駆動トランスミッションもいいものができた、組み合わせたらどんなにいいものができるか、チーフエンジニアは日夜、考えています。でも、実際のところ、コンフリクトばっかりなんですね。エンジンはそう言うけれども、駆動はこうはできないし、シャーシはそれでは無理ですよと言ってくる。そのときに、チーフエンジニアが「そうは言っても、車として成立させるためにこういうテーマについて考えてくれ」と言って、うまく開発者同士に領域を超えて話し合いをさせるんです。自分の知見も言って、「そこの圧力が3倍になるというんだったら、君は3倍を前提にして設計すればいいじゃないか」「それはできません」「なんでだ?」「別の問題が出てきます」「なら、その担当に前提条件を変えて設計し直してもらおう」とか言って仲裁案を出すわけです。ですから、チーフエンジニアは議論の場を持って、共通語をつくろうとします。それぞれの言い分を聞いて、共通する課題を抽出し、それで問題解決を逆に投げ返すようなことをやっています。エンジンと駆動というとき、エンジンさえ作っていればいいんだと思わせずに、駆動と一緒にトルクを伝えるというシステムで性能を発揮するというタスクを負わせる。そうすると、業際が埋まりはじめて、協業が始まる。これからのクルマづくりには、システマチックにお互いを理解できる、「領域を超えた融合領域」のコーディネータみたいな人が大切ですね。赤松 こういった研究を行う上で、必要な能力にどんなものがあるとお考えですか。あるいはどのような人材が必要でしょうか。梅山 最終目標があったとしても、途中まで登っていったら、ここのところで何かに使えるんじゃないかと考える。さらに1 m上がったら、さらに何かいいものになるんじゃ梅山 光広 氏(65)−
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