Vol.1 No.2 2008
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インタビュー:トヨタ自動車グループにおける基礎研究から製品化への流れについて−145 Synthesiology Vol.1 No.2(2008)ているということですが、それぞれのかかわりはどのようになっているのでしょうか。先端研究の成果がそのまま先行開発に使われるということはないとは思うのですが。梅山 先端研究から先行開発へ、そして製品開発をして世の中に出していくというイメージですが、これがなかなか難しい。ありがちなのは、先端、先行、製品がバラバラで、「先端研究は難しい。自分がやれることはないな」と先行開発の人は思ってしまい、「先行開発は自由に考えているけど、製品にならないな」と製品開発の人は思ってしまう。この3つのフェーズをいかにうまく回していけるかが大事なのですが。そのために、コアになるキーマンをグルッと回してやることでうまくいっている例が多いと思います。私は歯車の研究に携わっていたのでそれを例に話すと、研究をしている人が、実際の自動車の音、振動問題について、先行開発の人と一緒に研究開発を進めていく体制にしてうまくいったことがあります。ニーズや実際に役立つ方法は、先行開発の現場にあるのです。先端研究の人も、現場で一緒にやってみて、何が問題かをしっかり体感し実験したりして体得することによって、自分の研究をもう少しステップアップしたほうがいいんじゃないかと気がつく、あるいはもっと広げるなり、違うテーマがあるとか、応用テーマがあるというのをどんどん拾っていけるようになるんですね。先端研究と先行開発がお互いに会話をすることで、自分の理論の限界と可能性が見えてきて、研究の方向が定まってくると思うんです。赤松 なるほど、逆の立場から言えば、先行側の持っている問題点について、先端研究の方と話し合うことによって、解決法が出てくることも期待できるわけですね。梅山 ええ。それに、先端研究の人が、そういうところに新しい研究課題があることに気づくことができれば、現場は非常に楽しいネタの転がっている場所だと分かるんです。 赤松 先行開発と製品開発も同じような形でやっていると考えていいですか。梅山 先行開発から製品開発にということでは、仕事のやり方が変わってきます。目標とする性能を満たすための構成を考えるところが先行開発ですね。そこで、制約条件ばかり考えていたら成り立ちませんので、目標達成のためのブレークスルーのアイデアを先行でやって、素性のいいものになってきたら、製品開発段階に落としていくという形です。製品開発に移ると、今度は生産技術の要件とか、重量、信頼性、コストとか、製品であるべき要件を満たすための開発に移っていきます。先行開発の成果を製品開発側で受けるわけですが、かなり思い入れの強い先行の人がやったものは、受け取る側がどのように構えるかが大変難しいもんなんです。すべての開発課題が解決された状態で製品開発に渡されるわけではないので、かなりハイレベルな要求を「達成してくれ」といって受け渡されちゃうと、受け取る側は苦労することになる。開発情報も十分伝わらず、開発への思いも共有できていないままに突然渡されても、「そんなもの、できるか」みたいなことになりかねない。だから、そういう思いのあるリーダーが先行開発から製品開発におりていって、一緒にやって、頑張ろうよと鼓舞していって、製品に成し遂げたらまた戻るというような形が必要なんだと思います。例えば3年サイクルで、先行開発と製品開発を回していくようなものはあり得るかなと思います。トヨタ自動車の統合型研究赤松 自動車技術の場合、複数の研究開発が統合されて製品化に至るのではないかと思うのですが、逆に基礎研究、先端研究の中で、ある1つのコア技術がそのまま製品になるようなケースというのはありますか。梅山 例えば先程の歯車の話で続けさせていただきますと、研究成果を実用化しようと思って、そのまま製品化できるかというと、そうはならないんですね。歯車にはシャフトが付いている。シャフトとベアリングがわからないと、製品にならないんです。自動車部品としては、1つのコアでというのはちょっと成り立ちにくいのかなと思います。 赤松 やはり統合が必要だということですね。梅山 統合が必要となる研究というと、車に乗った人がどう感じるか、肉体的、精神的な分析と、ハードウエアとしての車の挙動と制御の関係を明らかにすることがこれから必要になると思います。 赤松 なるほど、使う側である人間を含めた技術の統合ですね。梅山 人間が使うためにモノが生まれたのに、なぜこういう形に決まっているのか、その形は道具として最適なのか、道具以上の輝きをどう持たせるのか、ということは、まだまだ十分でないかもしれませんね。今こそ、そういう(64)−
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