Vol.1 No.2 2008
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研究論文:エアロゾルデポジション法(明渡ほか)−131 Synthesiology Vol.1 No.2(2008)での特性と製造プロセスコストがトレードオフの関係になりがちで、現時点ではバルク材料を工夫、加工し利用するほうがコスト、設備、エネルギー消費面で現実的なことが多いということに由来する。真空プロセスでは、純度の高い原材料と超高真空の環境が求められており、これを量産レベルで実用化するには、設備コストやエネルギー消費、環境負荷などの観点から懸念される課題が多々あり、これをブレークスルーすることも重要な課題になると考えられる。その意味で、これらに対応できるオンデマンド的な製造プロセスや製造システムの構築は、環境負荷低減という観点のみならず、産業競争力の強化という観点からも、今後、重要な課題になると考えられる。実際このような課題への検討は、センサデバイス用回路基板の実装などアセンブリレベルでは、小規模なセル生産システムという形で始まっている [1] 。以上のような高機能デバイス製造を取り巻く環境の中、「どう機能を実現するか?」だけでなく「どのような作り方で実現するか?」という研究開発の視点もますます重要になる。本論文では、このような視点に立ちエアロゾルデポジション法をベースとしたオンデマンド製造プロセス実現の可能性を検討した。2 エアロゾルデポジション(AD)法とはエアロゾルデポジション法(以下AD法)[2]は、あらかじめ他の手法で準備された微粒子、超微粒子原料をガスと混合してエアロゾル化し、ノズルを通して基板に噴射して被膜を形成する技術である。ガス搬送により加速された原料粒子の運動エネルギーが、基板に衝突することにより局所的な熱エネルギーに変換され、基板-粒子間、粒子同士の結合を実現するものと考えられてきた。しかしながら、そのエネルギー変換のメカニズムは十分理解されているとは言いがたかった。図1に成膜装置の基本構成を示す。この装置は、細い搬送チューブで接続されたエアロゾル発生器と成膜チャンバーから構成され、成膜チャンバーは真空ポンプで50~1 kPa前後に減圧される。原料であるドライな微粒子、超微粒子材料は、エアロゾル発生器のチャンバー内でガスと攪拌・混合してエアロゾル化され、両チャンバー間の圧力差により生じるガスの流れにより成膜チャンバーに搬送、スリット状のノズルを通して加速、基板に噴射される。原料微粒子には、通常、機械的に粉砕した粒径0.08~2 µm程度のセラミックス燒結粉末を用いる。ガス搬送された超微粒子は、1 mm以下の微小開口のノズルを通すことで数100 m/secまで容易に加速される。成膜速度や成膜体の密度は使用するセラミックス微粒子の粒径や凝集状態、乾燥状態などに大きく依存するため、エアロゾル発生と成膜チャンバーの間に凝集粒子の解砕器や分級装置を導入し、高品位な粒子流を実現している。最近、このAD法でセラミックス原料粉末を用い、その粒子径、機械特性等を調整し適切な成膜条件を選ぶと、図2に示すように高密度かつ透明なセラミックス被膜が常温で高速形成できる常温衝撃固化現象(Room Temperature Impact Consolidation: RTIC)[2][3]が見出された。原料微粒子を基板に吹き付けるときに基板加熱や成膜後の熱処理は行っていない。また、この現象は、セラミックス材料だけでなく金属材料でも同様に生じる。AD法による常温衝撃固化で形成したセラミックス膜の微細構造は、結晶粒子間にアモルファス層や異相はほとんど見られず、いずれの場合も室温で10~20 nm以下の無配向な微結晶からなる緻密な成膜体が得られている。また、10 nm以下の微結晶内にも明瞭な格子像が確認され、膜内部には歪みなどを含むものの、膜組織は基板界面から膜表面に至るまで均一な構造である。さらに、いずれの場合も原料微粒子は平均粒径で80~100 nm以上の単結晶構造であるが、形成された膜ではより小さな微結晶組織になっている。XRDやEDX分析の結果からも、形成された膜は組成変動も少なく原料微粉の結晶構造をほぼ維持している。粒子速度の測定、運動エネルギーの評価などから粒子衝突により原料粒子結晶が機械的に破砕、塑性変形することで微細化され、同時に粒子間結合も生じることでナノ結晶薄膜が形成されると考えられる[1]−[3]。従来の粒子衝突を利用したコーティング手法では捉えられていなかった観点である。以下に従来薄膜プロセスと比較したAD法の特徴をまとめる。1.常温、バインダーレスで緻密な成膜/成形体が得られ る。2.高い成膜レート(5~50 µm/min) (従来成膜法:0.01~0.05 µm/min)3.蒸気圧の大幅に異なる複雑組成系に対し使用粉末と 同一組成・結晶構造の成膜体が得られる。PZT厚膜(500 µm)α-AI2O3(4 µm)Pt/Ti/SiO2/Si基板図2 AD法で常温形成されたセラミックス膜(50)−
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