Vol.1 No.2 2008
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研究論文:シームレスな20万分の1日本地質図の作成とウェブ配信(脇田ほか)−83 Synthesiology Vol.1 No.2(2008)に基づいたデータ整備を行い、最新のウェブ配信技術の適用を推進している。これらを通じてより詳しくより正確な地質情報を迅速かつ広汎に流通させ、さらに他の情報・システムと相互運用することによって、インフラ整備や災害防止など、社会の安心・安全に寄与することができると期待される。本報告では、地質図情報を基礎とした国土の知的基盤整備を積極的に推進するために第2種基礎研究として構想したシームレス地質図に関する研究シナリオと、社会に役立つわかりやすい地質情報の提供という研究目標達成のために創出した知識選択の方法を示す。ここで第1種基礎研究の例として示している地質図の研究は、古生物学・構造地質学・層序学・岩石学など様々な分野の知識を統合して地域社会に役立つ地質情報を創出している点で、第2種基礎研究という側面も併せ持っている。しかし、近年作成されている地質図では専門分野ごとにより高度な研究内容を盛り込んだ基礎研究報告書としての性格が過去に比べてより強くなっているという事実に基づいて、地質図研究の第1種基礎研究としての側面を特に強調して記述している。このような対比に基づいて、日本の国土の地質に関する様々な領域の知識に加えて、インターネット配信技術などより広範な知識の統合を通じて、社会生活における価値創出のための一般性のある方法論を導き出す「第2種基礎研究」としてのシームレス地質図の研究の特徴を以下に論述する。2 シームレス地質図研究の背景と目標2.1 新しい地質モデルによる古い地質図の更新地質図は、河川沿いや山野にわずかに露出した地層や岩石の種類や構造の観察データに基づいて地質モデルを構築して、地層や岩石が草木や土壌に隠されて露出していない大部分の地域を推定して描かれる。まず重要なのは、露頭と呼ばれる地層や岩石が分布している場所での観察である。この観察の際においても、観察者が有する知識や地質モデルが重要な役割を果たす。ただ漫然と眺めるのではなく、現在世界で進行している地質学の最新の知識とモデルに基づいて、わずかな露頭の情報から地下全体にわたって、正確さを失わない範囲内で最大限に地質情報を抽出する。山野に点々と分布するわずかな点の情報から広大な地下の様子を描きだす地質図描画技術は、データとモデルが不可分な、いわばアナログ可視化技術としてコンピュータ誕生のはるか以前から発展してきた。隣接する地質図が異なる地質モデルに基づいて作成された例として、岐阜県美濃地方を見てみる。岐阜県美濃地方では、1964年発行の「根ねお尾」、1984年発行の「八はちまん幡」、1991年発行の「谷たにぐみ汲」、1995年発行の「美みの濃」という4つの5万分の1地質図が隣接している[4]‐[7]。地質学の世界では、新たなパラダイムである「プレートテクトニクス」が1960年代に確立した。このパラダイム転換の前に地向斜モデル用語1で作成されたのが「根尾」で、海洋プレートの沈み込みで形成された付加体モデル用語2に基づいて作成された他の地質図とは地質区分や表現方法が大きく異なっている。また、それ以降の地質図もそれぞれプレートテクトニクスの適用において、海底地すべり説用語3の「八幡」、 泥ダイアピル説用語4の「谷汲」、構造変形説用語5の「美濃」のように異なる地質モデルを採用し、それに従って描かれているため、地質区分や表現方法が地質図ごとに若干異なっている(図1)。このように岐阜県美濃地方の地質図はそれぞれ時代によって異なる地質モデルが採用され、それに従って描かれてきた。地質図を利用するためには、それぞれの時代背景や研究成果の変遷などを理解する必要があるが、利用者地質学モデルB地質学モデルC地質学モデルD地質学モデルA地質図A地質図B地質図C地質図D地向斜海底地すべり泥ダイアピル構造変形19841991根尾八幡谷汲美濃19641995図1 美濃地域の地層の形成過程仮説(2)−
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