Vol.1 No.2 2008
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研究論文:タンパク質のネットワーク解析から創薬へ(家村ほか)−126 Synthesiology Vol.1 No.2(2008)恐れがあるため、長時間の使用には耐えなかった。安定的に連続解析を行うには本格的なクリーンルームが必要であると痛感させられた。2001年の春、産総研臨海副都心センターが完成し、クリーンルームを設置するチャンスを得た。我々は幾つかの半導体メーカーのクリーンルームを訪問し、初歩からクリーンルームの知識を学んだ。しかし、最終的には臨海副都心センターの別館が2005年に完成し、第二世代のスーパークリーンルームができるまで塵の問題は解決しなかった。4 第2種基礎研究の実行(試料調整の問題)液体クロマトグラフィの要素技術の開発に成功した後、そのハードウェアを普及一般化するという製品化研究も重要と考えた。しかし前節で述べたように、開発した技術を活かす解析環境を構築しなければ役に立たないことも判明した。私自身の真の狙いは、世界最高感度の質量分析システムを構築し、タンパク質ネットワーク解析を大規模・高精度に行い、ここから疾患の発症メカニズムや新規な創薬ターゲットを効率的に発見することである。実際に、開発した質量分析システムの効果は非常に大きいものであった。あらかじめ電気泳動などで試料を分離する必要がなく、たった1時間ほどで、サブ・フェムトのレベルで200以上の異なるタンパク質から構成される相互作用複合体を一網打尽に同定し尽くすことができた。すなわち、これまで数10~100リッターというスケールから試料調製し、数ヶ月かかる解析が、2~3日で行えるようになった。また、複数の解析を10~20件並行して行うことも可能であるため、大規模な解析をハイスループットに行うことが現実のこととなった。ハイスループット化により、高精度な解析を行うための試料調製条件を詳細に検討することができるようになった。タンパク質のアフィニティ精製、反応時間、細胞の可溶化法等、様々なパラメータが存在する。これらの複数のパラメータを種々に組み合わせるには、数1000回の解析をしなければならない計算となり、従来の方法では1人の研究者が一生かかっても行えない程である。従って、このような網羅的で徹底した試料調整の条件検討はかつて行われたことがなく、各自の経験や直感に頼った試行錯誤的な試料調製が行われるのが通常であった。実際に、我々は数1000回の解析を通して試料調製の最適化を求め、極めて精度の高い、疑似陽性を極力排除する方法を得ることができた。このプロセスで実に様々なパラメータを検討したが、得られた結論は単純であった。「素早く作業する」ことである。これまでの解析方法では感度が低かったため、試料の回収量を少しでも多くするように調製することが常識であった。しかし、回収量をあげようとするとその分だけ作業に時間がかかり、その間に不安定なタンパク質は変性・凝集し「汚い」データを生んでいたということが分かった。高感度な解析が可能となった暁には、もはや試料の「量」に過度にこだわる必要はない。それよりも 「質」を高めるため、タンパク質が変性・凝集する前に少しでも早く試料を調製することが最重要の要件となった。しかし、これを実際に実行するのは容易ではなく、担当者は徹底的な試料調製の技法の開発を行った。それは試験管の持ち方や実験ベンチ上の試薬類の配置の仕方に始まり、作業者が最も合理的な動きができるように配慮した。また、実技者の動きをビデオに収め無駄な動きがないか何度も検討した。最終的には、数時間あるいは終夜で行っていた作業を、1時間以内で終えるプロトコールを完成させて実行した。5 研究成果と産業化への展開これらの技術開発を経て、我々は約5年間で、2,200個のヒトcDNAを用いた大規模なタンパク質ネットワーク解析を実施した。それに要した解析回数は16,000を超える。それによりタンパク質が生み出す新たな細胞の仕組みを明らかにすることができた。これらの成果はNature本誌2報、姉妹紙6報を含む30報近い論文として既に報告した。また当初の予想以上に多くの疾患関連遺伝子のタンパク質ネットワーク解析に成功した。癌、生活習慣病、神経変性疾患、色素性乾皮症、ダウン症、ベーチェット病、本態性高血圧等の原因・関連遺伝子の機能解析や、病態・発症の分子メカニズム解明や理解に繋がる知見を得た。また、疾患との関連が全く予想されなかったタンパク質も、ネットワークを解きほぐすことにより、全く新しい創薬ターゲットとなり得る例も幾つか発見した[2]−[14]。その中で非常に象DSCR2HCCA3��Ump1プロテアソーム複合体の完成��Ump1MGC10911Ump1はβサブユニット(オレンジ)をリング化する。MGC10911はαリング(ピンク)同志が結合しないように、中間体のリングの上部を覆っている。DSCR2とHCCA3はヘテロ二量体を形成しα5 とα7サブユニットを引き寄せる図3 プロテアソームのアッセンブル因子の発見プロテアソームを組み立てる4つのアッセンブル因子を発見した。プロテアソームそのものを阻害するよりも、このアッセンブル因子を阻害する方が副作用がなく広範囲のガン細胞に有効である可能性が高く、よりよい創薬ターゲットである。(45)−

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