Vol.1 No.2 2008
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研究論文:タンパク質のネットワーク解析から創薬へ(家村ほか)−125 Synthesiology Vol.1 No.2(2008)した。1系統のポンプにすることにより流路を劇的に単純化することができ、低流速の送液を行う上での最大の障害であるデッドボリュームを最小化できる。また、これが可能であるならば送液スプリットを行わずとも低速送液は可能である。ここで我々が考案したのが、一定の濃度間隔でステップワイズにあらかじめ別のポンプで作っておいた溶出溶媒をリザーバーに蓄えておき、これを1系統の低速ポンプで押し出す、というものである。各リザーバーは複数ポートを有する1つのバルブを経時的に切り換え濃度勾配を作り出す。このアイデアを一言で言えば、「大きな世界であらかじめ十分均質に混ぜておいて、それをそのまま小さな世界にデリバーする」という、ある意味「コロンブスの卵」的なものである。また、あらかじめ作っておいた各ステップの溶媒を相互に混ざらない状態におくことは重要なことであるが、微小の流路中では溶媒が混ざりにくいという2系統ポンプの欠陥を、ここでは逆手に取っている(図2の下部)。この方法は、液体クロマトグラフの極めて高い再現性と連続運転・自動化を可能にした。これにより、スプリットを用いない直接送液で毎分100ナノリッター以下のHPLCを世界で初めて質量分析機とオンライン化した[1]。この結果、実質的に従来の20〜50倍の高感度化に成功した。さらにこれらの高感度化を最大限に活かすための解析環境の改善を行った。なぜなら、微量の試料を解析できる感度が達成されても、通常の実験環境では人間由来の大量のケラチンが存在するため、夾雑するケラチンにより微量な試料由来のシグナルがかき消されてしまうからである。また、デッドボリュームを極力排除した分析流路は内径10マイクロメートルという極小の配管であるため、空気中の発塵パーティクルで容易に流路が閉塞する。従って、人間が動き回る通常の環境での連続運転は不可能であった。発塵パーティクルとケラチンの排除は容易ではなかったが、開発したシステムを少しづつ稼働させ実際の解析を開始した。2000年、技術開発を行ってきた東京都立大学において実際の試料を使った解析を開始した。当時クリーンルームの設備はなかったので、解析室への人の出入りを極力制限することによって実験環境の問題を回避した。そして、解析室内を徹底的に整理整頓して発塵源を排除し、帯電防止シートで極力被い、静電気で塵が吸着しないようにした。また起毛した衣服で入室しないことにした。さらに、解析室の扉の開閉をした後、塵が静まるまでそのまま長時間待機して解析を行った。このシステムを用いた解析で、初めて100を超えるタンパク質を瞬時に同定できたときの感激は何物にも代え難いものがあった。結果の優位性を理解した周囲の人々の協力を徐々に得て、その後解析室に簡易なクリーンブースを設置することができた。しかしながら現実問題としては、質量分析機から発生する熱量が大き過ぎ、ブース内の温度は容易に35 ℃以上になってしまい、装置にダメージを与える数ヶ月2~3日極微の濃度勾配を作り出す新しい技術スプリットによる 低速液体クロマトグラフィ (従来の技術)ジャーファーメンター(100 L培養)10 mL培養5000 nL/min500 nL/min100 nL/min廃液溶出勾配RPカラムRPカラムMSMS質量分析装置質量分析装置図2 新しい技術と従来の技術との比較従来技術は、2系統のポンプにより溶出勾配を作り出す。初期溶媒を送液するAポンプと、溶出溶媒を送液するBポンプの送液速度を変化させ濃度勾配を生み出す。しかし、この方法はデッドボリュームが大きく低速混合は出来ない。そのために分析カラムの間にスプリッターを設け、送液のほとんどを捨てることにより低速化を図る。図では1/10を捨てることにより、流速を5000 nLから500 nL/minにしている(上段)。新技術は、複数に分岐した各リザーバーに、別系統のポンプシステムで予めステップの溶出溶媒を充填しておく。ポートバルブを回転させ、各ステップを1系統の低速ポンプで押し出していくことにより溶出勾配を作り出す。デッドボリュームがなく、スプリッターも必要としない(下段)。従来の技術では1回の解析に大量培養によるサンプル調製が必要だった。ジャーファーメンターによる100 Lスケールの培養も珍しくなかった。そのため1回の解析に数ヶ月の準備期間を要することもあった。しかし、我々が開発した技術では10 mL培養由来のサンプルから数回の解析が出来る程の感度を達成した。このスケールとなるとサンプル調製は2~3日で可能であり、複数サンプルを同時並行的に調整することもできる。(44)−
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