Vol.1 No.2 2008
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研究論文:サービス工学序説(吉川)−119 Synthesiology Vol.1 No.2(2008)種少量生産システム)、IMS(知的生産システム)などのような、製造作業への情報処理の導入によってその生産性を上げ、また国際的競争力の優位性を作り出すことに成功してきたのであるが、その成功と後進性とはどのような関係があるのであろうか。まず気付くことは、その情報技術が工場の外に出ることはなかったことである。実は、この工場内の情報化は、工場内のサービス行動の情報化による増幅だったのであり、それは抽象化を高めてみれば、工場の外でのサービス行動の増幅に使えたはずのものである。それができなかったのは、前述のように経済的視点からの評価しか行わなかったこともあるが、直接的には産業間の縦割りが壁となったからである。工場では、情報化技術はまだ幼いものであったにせよ、わが国の造語であるメカトロニックス注)にみられるように、情報化技術は機械技術や電気技術、材料技術などと融合しながら新しい局面を開いてきたのである。それを我が国の製造業が国際的に先導したと考えてよい。とすれば、今、情報技術が突出しているサービス産業に対して、情報技術を超えてより広い先端技術の導入をするのは我が国であり、そこに我が国が率先して新しい環境時代の産業の姿を描き出す可能性がある。サービスの増幅論を展開し、その視点でサービス産業や製造業を含む全産業の生産性、それは「地球生産性」であるが、それを高めることが、サステナブルな世界を作ることの必要条件であると思われる。(7)工学理論としての問題本論文は、サービスを現実に向上するために有効な一般的方法として、体系的知識、それも体系内に矛盾がなく、しかも他の学問領域とも整合する知識系を作ろうとするものであり、それは“サービス工学理論”と呼べる。この目的の実現を今後の研究に待つのであるが、本論文で抽出された幾つかの課題をここでまとめておこう。(A)サービスの定義本論文では、サービスは潜在機能の発現であるとしている。(論文中で機能が微分可能として時間問題を論じているのは一つの例であって、本来はこの制限がなく、もっと一般に論じる必要があることは言うまでもない。)これは基本的な定義であるが、文中に述べているように、サービス問題を機能問題に置き換えているのであり、サービスを論じるためにはどのような性質が機能として明らかにされなければならないかという形で機能論に寄与している。機能論はより広い問題で、機能が質量と自由エネルギー(情報)の形態で表現されることが推定されているが、この点はむしろサービス問題として検討する方が問題の本質に迫れる可能性がある。そこには、機能の“保存則”の可否という大きな問題があり、これはたとえばサービス経済にとっても深刻な視点であり、サービスの定義は機能の定義を参照しつつ、常に見直してゆくことが必要である。(B)サービスの不確定性 本論文で提供者をドナー、受容者をレセプターとあえて呼んだのは、提供者は自己への効果を考慮せずに、また誰かに受容してもらえるかどうかも意に介さずに提供するからドナーであり、受容者は、自己のほしいものだけを選択的に受容するからレセプターと呼ぶのである。これはサービスの社会モデルとも呼べるが、現実のサービス現象を考慮して定めたものである。これに関連する基礎的モデルとして、本論文では、サービス受容に次のようなモデルを与えている。すなわち、サービスはドナーからレセプターへ流入するものであるが、流入するサービスが直接効果を生むのでなく、それによってレセプターの潜在機能が発現して自身に効果を与えるとする。このことは、上記の社会性に加え、生物の生命維持の基本との整合、レセプターの主体性保証、現実のサービス現象に対する説明性などを考慮して作られたモデルである。これらの結果は、社会におけるサービスは確定的に解けるものではなく、進化論的視点で考察することの必要性があることを示唆している。(C)サービスに影響する因子理論を現実に近付けるためには、影響因子をできるだけ忠実に抽出しておくことが必要条件であるが、本論文ではとても十分とは言えず、今後の研究に委ねられる。抽出においては、相互に独立なものを選ぶことが必要で、データの統計検定も有用であるが、基本的に有効なモデルを(アブダクションによって)導出することが大切なことなのである。これもこれからの研究者たちの大きな仕事である。(D)定量性本論文で、サービスに関する諸性質を、しばしば量的なものとして扱っている。しかしこれも本論文で述べているように、機能、人の意思決定およびそれに基づく行動、などを主な因子とするサービス問題では、定量化についての議論は、慎重さを要すると考えている。安易な定量化、とくに、アンケートとか市場調査などの、非専門家の持つモデルに影響される調査によって定量的数値を得ることは有用ではあるが、それのみに基づく理論を立てることは、慎むべきであろう。サービス理論は、現在は観測されていない要素をも洞察し、それによって新しい要素の観測を促すことも大きな役割なのである。定量性、および計量は、理論の精緻化の上で必要なことである。ただしそれを求めるとき、モデルの精緻化と並行して行うことが条件である。(38)−

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