Vol.1 No.2 2008
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研究論文−82 Synthesiology Vol.1 No.2(2008)1 はじめに地質学には、地表・地下における自然現象を解明する基礎科学としての側面と、地下資源探査など社会要請に密接に結びついて発展してきた応用科学としての側面がある。地質学の黎明期に作成された世界最初の地質図は、地下の不思議や謎を解き明かし、私たちの目の前に示してくれると同時に、石油・石炭・鉄・ダイヤモンドといった宝の山を人類にもたらす貴重な知見と情報を与えてくれた[1]。現在においても、地質学は地球のシステムを理解する知識の体系を構築する学問として発展し続けるとともに、国際地球惑星年2008の標語「社会のための地質科学」にあるように、資源・環境・防災など多方面において、役立つ実学としての役割を担っている。日本では、産総研地質情報総合センターの前身である地質調査所が設立された明治15年(1882年)以来、様々な縮尺の地質図が作成され、明治初期から戦中・戦後にかけて産業振興を支える鉱物資源探査の基礎情報として重要な役割を果たし、近年では産業立地、防災や環境対策の基礎情報として利用されてきた。中でも20万分の1縮尺の地質図は、全国を網羅する最も詳細な地質図として、作成・利用されてきた。このように地質図は国土の基本的地盤情報として整備されているが、同時に野外地質学の第一級の研究成果でもある。野外調査に基づき最先端の研究を実施し、日本列島の地殻の発達過程に関する地質学の最新成果を盛り込んで作成される地質図は、知識の体系の構築に寄与する第1種基礎研究の研究成果である[2][3]。このように地質図は野外調査を通じて行われる第1種基礎研究の成果として作成され、その時代に最新とされる地質モデルに基づいて作成される。地質図作成の基となる地質モデルは研究の進展とともに変化し、改変・更新されていく性格のもので、異なる地質モデルで作成された地質図ではそれぞれ異なる地質区分や表現がなされている。従って隣接する地質図であっても、作成年次が異なる場合、地質区分や地層の分布が異なるという事態がしばしば生じる。このような状況の中で、様々な年代で実施された第1種基礎研究の成果としての地質図を最新の地質モデルで集約し、周辺地域における地質調査で得られた新たな地質情報に基づいて再解釈することによって、地質図を最新の知識で置き換える必要が生じた。さらにこれを全国規模に展開することによって、より社会に役立つ情報として生まれ変わらせることができる。作成当時最新の地質モデルで作成された第1種基礎研究の成果としての地質図が、時を経て、古い地質モデルで描かれた使いにくいデータとなる状況を「死の谷」に擬えるならば、その「死の谷」を乗り越えて、社会に役立つ地質情報を創出する「第2種基礎研究」として本報告で紹介するのがシームレス地質図の研究である。シームレス地質図の研究は単に利便性の高い地質情報を整備するだけではない。それは地質図を社会で広く活用してもらうためのインターネット配信技術の研究や、異なる種類の空間情報と相互に利用しあうための標準化の研究でもある。そして、情報整備・配信・利用を国内外のネットワークの中で実現するといった本格研究としての発展を目指している。さらにシームレス地質図を基盤として、世界標準研究論文地域ごとに異なる時代に作成された地質図を、統一した最新の凡例のもとに再構成し、同時に区画の境界を連続化して日本全体をカバーするシームレスなディジタル地質図を作成した。その研究過程を中心に、地質学の基礎研究から社会への情報発信技術に至る研究シナリオを構想した。また第1種基礎研究の成果としての地質図を、誰でも容易に利用できる情報に加工し、インターネットを通じて相互運用性の高い情報として国内外に発信するまでの第2種基礎研究としての研究方法を創出し、地質図研究における本格研究への道筋を提案した。シームレスな20万分の1日本地質図の作成とウェブ配信ー 地質図情報の利便性向上と有用性拡大を目指して ー脇田 浩二*、井川 敏恵**、宝田 晋治**、伏島 祐一郎**産業技術総合研究所 *地質調査情報センター **地質情報研究部門 〒305-8567 つくば市東1-1-1 中央第7 産総研つくばセンター *E-mail:koji-wakita@aist.go.jp(1)−
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