Vol.1 No.2 2008
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研究論文:サービス工学序説(吉川)−116 Synthesiology Vol.1 No.2(2008)果実現が完全、すなわち両係数が1ということにしておく。その結果が、例えば図3であったとする。注文に対して提供行動がずれている。ずれは、期待と提供の間の質ないし量のずれ(図中では質を評価して量化してあり、x、x’とする)と時間的ずれ(期待がt、提供がt’)であり、到達度の低下を招いている。もちろん充足度も下がる。その値は、例えば次のように求めてもよいであろう。 充足度、到達度=1/4Σ(xx’/x2)(1 –(¦t–t’¦/t ))= 0.69充足度は70 %程度になる。この例のように、サービスは時系列として考えなければ現実的な問題に対応できない。この例では、提供のうち配膳の時刻だけを示すにとどめているが、それは離散化による近似である。本来は提供も受容も時間の連続関数になると考えられる。個別のサービスを、ドナーの行動やレセプターの挙動などに注目して、工学的に設計したり分析したりする場合は、サービスをより微視的に記述し、連続過程として考えることが必要になるであろう。今の例でいえば、ドナーの料理人は配膳のための設計、動作を伴う準備(提供に含まれる)の時系列を持つし、一方レセプターである客も、料理が出てくるまでの期待、飲食、配膳間の休憩などの受容の時系列を持っている。その間の時系列の表現には工夫が必要であるが、可能である。例えばその過程とは、ドナーが準備によって次第に“提供のための機能”を増やしてゆくこと(“作るための機能”はすでに発現している)、そして配膳によって提供行動が起こると、それはレセプターに対する機能の発現であり、顕在機能すなわちサービスとなり、蓄積である潜在機能は減る。準備によって蓄積した潜在機能の変化(時間微分)がサービスであるとは、このようなことである。配膳でレセプターの受容が一気に高まり、それによって食事という受容行動が起こり、充足が進み、食べ終わるとゆっくりと余韻を楽しむ中で新たな充足が起こるというような時間経過をたどる。ドナー、レセプターそれぞれの要素は独立でないし、また当然両者の要素間にはサービスを特徴付ける関係があるから、サービス問題は、自己相関性のある有限連続過程の間の相互関係になると考えられる。3 サービスの増幅ここで、サービスの増幅について述べる。これはサービスが現在産業あるいは経済問題として注目を集めていることと関係のある重要な課題である。サービスの生産性とも関係がある。これらの課題はいずれ議論することになるが、ここではその議論に必要となる基本的な概念について述べておく。サービスは、増幅することができる。増幅は、媒体(ビークル)によって行われる。一人の人が他の一人の人にする原始サービスをサービスの基本単位とし、それに対する比でサービスの増幅率を表す。増幅には2つのモードがある。第一は原始サービスの条件の中での媒体による強化である。一人の人が一人の人に、直接でなく媒体(この場合は道具であることが多い)を通してサービスする時、直接の場合よりも道具によってサービスが高速化したり広域化したりすることがあるが(人を移送するとき、自動車を使えば背負って歩いて行くよりはるかに高速なサービスを提供できるように)、それを強化された原始サービスと呼ぶ。背負って歩くという原始サービスが、自動車という媒体(道具)の強化によって増幅されたのである。第二のモードは増殖である。媒体を使ってネットワークを作り、サービスを多数の人に、一人あたりの提供量を減ずることなく分配することができれば一人のサービス提供者が複数の受容者に同じサービスをすることになり(一人に語りかける落語は、テレビによって何万人が聞けるように)、サービスの総量は増大する。このようにサービスが分配される場合を、増殖による増幅と呼ぶ。提供者と受容者を関係づける媒体(ビークル)には、装置や機械などの道具(ツール)、会場や建物などの状況(サーカムスタンス)、そして国家、行政府、地域、組織などが定める法律、制度、規則、習慣どの社会的仕組み(ソシアルシステム)がある。それらは図4のような例が考えられる。これらの増幅率を定量的に求めるためには、それぞれの場合について工夫が必要である。簡単な例でいえば、上に述べたように、テレビの台数が増殖による増幅率と考えてもよいであろう。強化のほうは、例えば背負って30分かかったのを、自動車を使って5分で移動のサービスをしたとすれば、強化による増幅率は6である。しかし、このよ増幅媒体道具(Tool)状況(Circumstance)社会的仕組み(Social System)合成による増幅(Integration)媒体の種類サービス増幅媒体の例上記の合成工具、機器、機械、データーベース、ソフト、ウェア等構造物、空間配置、ネットワーク等法律、制度、規則、組織、習慣等テレビ、マッサージ機器、自動車、ワープロ、検索システム(すべての機器はサービス増幅器である)劇場、ホテル、遊技場、情報ネットワーク、道路政府、区役所、交番、銀行、店舗、通信システム、交通システム、病院、学校、企業(行政・金融・流通・通信・運輸・医療・教育サービス)図4 サービス媒体の例(35)−
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