Vol.1 No.2 2008
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研究論文:サービス工学序説(吉川)−114 Synthesiology Vol.1 No.2(2008)程度応えたかによって測られる。これをサービスの充足度という。レセプターの期待とは、レセプターの注文である。おそらくサービス問題の最も困難な点は、この注文がレセプター自身で完全には把握されていないことにある。それは、まず注文を出す動機としてのレセプターの判断による状況を基本とし、レセプターの価値観、感受性などを要因として決まるものであろうが、これらはいずれも主観的な性質をもっており、客観的に表現することが難しい。ここでは本論文の立場に立ち、それらの内部構造や内容の考慮には立ち入らず、それらをまとめて、レセプターの期待とはレセプターにとって“起きてほしい効果”であるとしておく。この期待が起点となってサービスが生起する場合が一般的であるが、それは次のような遷移で構成される。レセプターの期待(起きてほしい効果)→ドナーによる設計→サービス提供→サービス受容→レセプターの行動→レセプターに起きた効果 ここで、上記の各遷移の“良さ”が、のちに検討するサービス生産性などに影響を与えるので、ここでそれらを定義しておく。生産性の向上は、上記の連鎖がループを作っていて、そのループの上での情報循環がサービスの進化を起こすことが基本である。(1)設計の良さ(ドナーあるいはサービス設計者の能力)効果で表わされたレセプターの期待に対し、それを実現すべく設計されたサービスが引き起こす効果が予想されるときの、両効果の関係。ここには、レセプターの期待をレセプターが注文として表現する能力と、レセプターに起きてほしい効果をドナーが理解する能力との関係が含まれる。(2)サービス提供の熟練度(ドナーの能力)設計に従ってドナーが提供するサービスの、設計に対する関係(3)伝達効率(ドナーとレセプターを媒介するものの質)ドナーが提供するサービスに対してレセプターが受容するサービスの関係(4)受容行動係数または関数(レセプターの特性)受容したサービスとレセプターの行動との関係(5)効果実現係数または関数(レセプターの特性)レセプターの行動と起きた効果との関係これらを定量的に求めることは、サービス工学研究の重要な仕事である。2.4 補助的な概念以上に、サービスを考察するための基本的な概念について述べたが、ここで補助的な概念について述べておく。おそらくサービスを現実に考えるときに必要となるのは、起きた効果と起きてほしい効果との関係である。実用的には、これをサービス充足度と呼んでよいと思われる。期待 (起きてほしい効果)は (1)→(2)→(3)→(4)→(5)の順で効果にまで変形されてゆくから、ここで考える充足度は、(1)と(5)との関係である。ところで(1)と(2)とはドナーの能力であり、(3)の媒体もドナーが選ぶのが一般であるから、(1)、(2)、(3)をまとめてドナーのサービス実現能力と呼ぶことができる。一方、(4)と(5)とはレセプターの特性であり、サービスを受容する能力であるとも言えるから、まとめて受容者の受容感度と呼んでよい。すると、レセプターに起きた効果を主効果として、 主効果=ドナーの実現能力*レセプターの受容感度*起きてほしい効果の関係が得られる。*は現在のところ不明であるが、サービスを考える上で重要な関係である。ここで〈ドナーの実現能力*レセプターの受容感度〉が得られるとすれば、それはドナーからみると与えられた期待に対する到達度であるが、レセプターからみるとサービス充足度と考えることができる。これはサービスを現象的に考察するときに便利な表現である。この(ドナーから見た)サービス到達度と、(レセプターから見た)サービス充足度は同じものであるが、それはドナーの特性(能力)とレセプターの特性(能力)とを同時に含む両者の特性の総合的性質である。ところで、レセプターの受容行動係数と提供されたサービスの質とは独立とは限らず、依存関係があるのが一般である。上記の主効果に関する実用的、あるいは現象的表現は、両者が独立であるときに明解な意味を持つのであって、そうでないときはあまり有用ではない。したがって、両者が独立であるような特性の選定が必要であるが、それはサービス工学の研究課題である。また、ドナーの提供能力*レセプターの受容感度 = 1というのは、到達度、充足度がともに1で、完全なサービスと呼ぶことができるが、それは完璧な設計、最高の熟練、損失のない伝達、正確な反応、習熟した機能発現のときにはもちろん実現するが(十分条件)、それは現実的でなく、他(33)−
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