Vol.1 No.2 2008
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研究論文:サービス工学序説(吉川)−113 Synthesiology Vol.1 No.2(2008)様であり、人の場合は身体的なもの、精神的なものに分けられ、物の場合は物理化学的なものである。以上の定義は、従来の刺激、応答の考え方と矛盾しない。サービスの提供行動が刺激で、受容行動が応答であると考えてよい。しかし、ここではこの考え方をとらない。それは、のちに述べるように、サービスにおいては刺激、応答とみなされるものが図2に示すような固有の構造をもっており、その構造の明示なしには、サービスの本質を論じることができないからである。その構造に配慮する必要がなく、いわば巨視的、現象的にサービスを論じる場合には、刺激、応答の図式を用いることもある。2.2 サービス提供者(ドナー)サービスを提供するサービス提供者(以下ドナーと呼ぶ)は、ある動機に基づいて行動する。動機は多様であるが、基本的に自律的なものすなわち意図と、他律的なものすなわち注文とに分けられる。意図あるいは注文は、サービス受容者(以下レセプターと呼ぶ)の主効果を指定するものである。意図あるいは注文を受けて、効果を実現するのに有効なサービス行動を設計する。設計はだれがやってもよい。注文者であるレセプターがする場合もあるが、多くは提供するドナーがすることになる。のちに述べるように、サービスが社会化すると、サービス設計者という専門家が登場する可能性が生じるが、それはサービス問題の重要な特徴であるドナーとレセプターの間のコミュニケーションを弱める可能性があり、別に論じる必要がある(製造業における既製サービスの問題)。ドナーが設計するとした場合、その設計に従ってドナーは行動するが、そのうちの一部が有効なサービスとなってレセプターに送られる。ここで、意図あるいは注文に対する設計の良さ、ドナーの行動における動作や表現の熟練度および伝達効率によって、注文からの提供サービスのずれが生じる場合がある。このずれは、ドナーに起因するずれであり、ドナーの総合的な能力に依存するのであるから、このずれを抑制する能力をドナーのサービス実現能力と呼ぶ。これらはあとで定義する。2.3 サービス受容者(レセプター)レセプターは、ドナーからのサービスを受容すると、ある行動を起こしてその結果が効果となる。効果は物理的変化(状況、場所の変化など)、身体・生理的変化(病気回復など)、精神的変化(知識増加など)があって、簡単な物理量では表現できない状態変化である。サービスを受けるレセプターは、受容することによって生起する主効果に期待を持っていて、それが注文として表現される。ここで強調するべきことは、本論文で、レセプターの状態変化は与えられるものでなく、レセプター自身の行動が作り出すものとする立場をとることである。すなわち、提供サービス → レセプターの行動 →レセプターの状態変化と考える。ここで行動とは必ずしもレセプターの意志的行動とは限らない。例えば麻酔した状態で手術を受けた患者が、麻酔が効いている状態のまま回復するのも行動と考える。意志的か否かにかかわらず、患者自身の生理的行動がなければ回復はないからである。したがって、この過程でのレセプターの行動には、物理的、身体的、精神的なものがある。このことは、サービスという外からの刺激によって、受容者自身が持っていた潜在能力が発現して受容行動となり、それがレセプター自身に効果を引き起こすと考えることに他ならない。すなわち自分の行動で自分自身に効果を引き起こすという、生きているものが持つ基本特性にサービス問題を帰着させる。このように考えるのは、ドナーの提供したサービスが直接にレセプターの状態変化を引き起こすと考えることは人を受動的な機械と考えることに近く、サービスの本質であるレセプターの主体性があいまいになってしまうからという理由もある。言い換えれば、ドナーからの刺激による、レセプターの潜在能力の主体的判断を伴う発現である行動をまず考え、次にその行動がレセプター自身に起こす効果を考えることに本質があるからで、この場合は反応の固有構造を無視してはサービスの本質を見失ってしまうことに注意しなければならない。そのことを理解した上で現象的に刺激と反応としてサービス提供と主効果の発現とを考えるときは、両者の直接的な関係をレセプターのサービス受容感受性とし、その値を受容感度と呼ぶこともできる。この考えに立てば、自分が自分自身に対して行うサービスが次のように理解される。自分にある効果が生じるよう期待を持つとき、それが実現することを目的にしてある行動をとる。それは提供行動であるが同時あるいは連続して受容行動が起こる。その受容行動が効果を引き起こす。ここではドナーとレセプターが同一の人であり、これを一人の人が他の一人の人にする本来のサービスが縮退した場合と考える。この考えのもとでは、他の人からサービスを受ける理由は、縮退したサービスが出来ない、またはしたくないからであることになる。この、出来ない、あるいはしたくないという状況が起こり得ることが、サービスが社会的に存在することの根本的な根拠である。レセプターにとって、受けたサービスに対する充足の程度は、提供サービスが結果としてレセプターの期待にどの(32)−

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