Vol.1 No.2 2008
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研究論文−111 Synthesiology Vol.1 No.2(2008)1 序本論文は、サービスを工学的に論じるために必要な体系を述べるものである。その体系を、現実のサービスの向上に役立つ“製品”と考えて構成し、その構成過程をできるだけ明示的に示す。体系は、サービス工学の目的、適用範囲、関連する学問領域などを明らかにするとともに、サービスを理論的に取り扱うために必要な概念を抽出し、概念間の関係を明らかにするものでなければならない。一方、サービス工学は、サービスという視点からの社会、産業の再考、新しいサービスの創出とその産業化、サービスの要素技術の抽出とその改善、既存産業におけるサービス生産性の向上などに資するものであることを要件とする。サービスについて考える本論文の基本的立場について触れておく。以下に述べることは、以前から筆者らが論じてきたことなのであるが[1]‐[3]、ここで本論文の出発点として整理しておくことにしよう。(1)人は機能を発現する能力を持つ[1]。(2)すべての物は機能を持つ[1]。(3)機能は人にとっての意味あるいは価値として認識される[1]。(4)自然も人工物も機能を持つが、人工物の機能の中には製作者の意図によるものが含まれる[1]。(5)物の価値は、物体そのものにあるのでなく、それが持つ機能にある[2]。(6)機能は潜在し、行動あるいは使用によって顕在化するが、行動あるいは使用の態様により異なる機能が顕在する[1]。(7)サービスとは顕在機能である[3]。(8)サービスは産業の成立以前から存在する人固有のものであり、人が社会を作ることの最大の動機であった[3]。(9)人工物としての工業製品は、意図した機能の担体であるから、製造業とサービス業とは独立のものではなく、相互に複雑に関係し合う[2]。(10)製造業の作る製品はサービスを強化、あるいは増幅 するためのものであるから、理念的には、サービス 産業は製造業をその内に含む[3]。などである。すなわち、ここではサービスとは人にとって意味あるいは価値のあるものであり、したがってそれは物理学で論じることはできず、機能学で論じるべきものであることを主張している。しかしながら、物理学の整合性に匹敵する機能学があるわけではなく機能学は途上の学問であり[4][5]、したがってサービス工学は基礎とすべき機能学の進展と並行して、ないしはその進歩を担いつつ、発展すべきものであることが理解される。この点は本論文においても現れる困難な課題である。しかし、その課題にしばしばぶつかることがあるとすれば、サービス研究が機能学の進歩に寄与する可能性が大きいことを示しているといえる。サービス工学では、機能と価値を区別して論じる。ここでは機能を個人の主観によらないものとする。一方、価値は個人にとってのものであり、人の価値観に依存し、したがって人々が同一物に対して多様な価値を見出す問題と切り離して考えることができない。人の価値観はサービス工サービス工学序説ー サービスを理論的に扱うための枠組み ー産業技術総合研究所 理事長 〒100-8921 東京都千代田区霞ヶ関1-3-1 産総研東京本部 E-mail:yosikawa@mb.rosenet.ne.jpサービスを理論的かつ体系的に論じるための枠組みを提起する。その枠組みでは、一人の人(ドナー)が他の一人の人(レセプター)にするサービスを原始サービスとし、ドナーから発現したサービスをレセプターが受容することによって生じる結果をサービス効果とする。一般のサービスはそれが媒体によって増幅されたものであるが、経済の仕組みと関係なく存在する原始サービスが道具や様々な社会の仕組みによって増幅され、サービス産業を作り出す。吉川 弘之(30)−
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