Vol.1 No.2 2008
24/92
研究論文:だれでも構築運営できるコラボレーションシステムの実現(江渡ほか)−102 Synthesiology Vol.1 No.2(2008)い出しは、機能レベルだけでなくコンセプトレベルで行う。これらの結果をもとに、新たなサービスの設計を行う。この設計ではサービスのビジョンを含む設計思想を決定し、要素技術の選択や改良、将来の拡張性や他システムとの連携を配慮したシステム設計を行う。システム実装はシステム設計に従い、ソフトウェア工学上コストパフォーマンスを配慮して開発する。次にある程度の規模のユーザを対象として試験運用を行う。このフェーズではユーザからのフィードバックを収集できるようにシステムのログを蓄積するだけでなく、ユーザからの直接の声を収集する。これらの情報を分析して随時設計を修正し、引き続き試験運営によりシステムの改良を進めて製品版を完成させる。これらの分析改良時に隠れたニーズを発見して新たなサービスを構築する知見を収集できる場合もある。製品版は運営会社に販売またはライセンシングされて本格運営されるが、この中でも絶えずメンテナンス、システム改良が進められる。以上がWebシステムにおける本格研究の代表的なユーザ参加型プロセスである。qwikWebでもこのプロセスに従って開発し、現在試験運用がほぼ終了した段階である。次章以降qwikWebの開発プロセスについて述べる。3 コラボレーションシステムの現状分析企業内やサークルなど組織内での連携や協働作業では、電子メールが重要な役割を果たしており、特にメーリングリスト(以下、ML)による連絡や協働が盛んに行われている。しかし、一連の協働作業においては、情報が構造化されておらず最新の情報の確認にも手間がかかる場合が多い。一方、Lotus Notes[3]やサイボウズ[4]などのような、スケジュール調整やテーブル機能、1つの文書を協働で作成する機能を持つコラボレーションツール、グループウェアが利用されている。しかし、このようなシステムの立ち上げ手続きや作業は煩雑であり、メンテナンスの手間も管理者に集中する。また、グループウェア内での連絡手段は、通常利用するメールアドレスと異なるため、メールでのやり取りを基に協働で文書や知識を構築する場合には、情報の移動の手間が発生する。組織外のメンバとの柔軟な連携も容易でない。立ち上げや運営コストを低く抑える必要があり、少数の管理者に負担が集中しないコラボレーションシステムを欲しているユーザにとって、特にシステムに関するノウハウを習得しなくても、そのシステムを見ただけで利用方法が分かるくらい分かりやすいことが必要である。また同時に、すでに慣れ親しんだ環境を出発点として、徐々に自分の理想とする情報環境を実現できるような発展性を備えた構造にする必要がある。一方、このようなユーザにとっては、各文書や知識のきめ細かいアクセス制御(どのユーザがどの文書を編集できるかなど)は不要である。これは、サイボウズ[4]などは数1,000人のユーザを想定しているのに対し、管理者に負担をかけられないユーザは、数10人程度のコラボレーションシステムを必要としているからである。筆者らは、ターゲットユーザの一例として、グループウェアの管理に時間をとることができない身近な研究者の協働作業に着目した。彼らは日常的にメールを主とする連絡手段を利用している。しかし、イントラでのグループウェアを利用した協働作業は、上司からの命令により文書を作成する場合などを省いて、自発的に行っていない。これは協働作業により文書等を作成した方がよい状況においても同様である。なぜこのようなことが起こるのであろうか。岡田[5]は協調の階層モデルとして、コラボレーションの直下の階層にコミュニケーションを位置づけ、その重要性を示した。北川[6]はオンラインコミュニティを、情報を得る、関係を結ぶ、協働を行う、という3つに機能分類し、大半は情報を得るだけのコミュニティだが、幾つかはメンバ間で親密になり、さらにその中の幾つかは協働を行うようになるのではないかと述べた。このように協働作業(コラボレーション)はその背景に密なコミュニケーションが不可欠であり、コミュニケーションによる情報交換や合意形成を経て、ようやく協働作業が生まれうると考えられる。実際に、報告文書の作成などのような協働作業はメールをベースに進められているものの、すべてのメールを読んで修正や統合をしないと最新の状況が把握できず、知識の構造化や共有上問題があった。そこで、グループ内で自然な連絡を基にグループ内知識の構造化、協働文書構築も容易に行えるシステムが求められていると考えた。つまり、「管理の容易さ」「習得の容易さ」「知識の蓄積・構造化」が課題となっていたと言える。4 qwikWebのサービス設計4.1 qwikWebの設計思想4.1.1 基本思想3章で述べたコラボレーションシステムにおける課題をユーザの立場から捉えなおした結果、「ユーザがシステムやその利用形態を、思い通りに設計できること」が根本であると考え、これをqwikWebの基本思想と設定した。従来のLotus Notes[3]やサイボウズ[4]などでは、一般ユーザがシステムを改変することはできず、この基本思想を取り込むことが困難である。一方、ウォード・カニンガムが開発したWikiを調査した結果、本提案で目指す基本思想と密接な設計思想をもとに開発されたことがわかった。そこで、このWikiの設計思想を「コミュニケーション・パターン」 [7][8](21)−
元のページ