Vol.1 No.2 2008
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研究論文:シームレスな20万分の1日本地質図の作成とウェブ配信(脇田ほか)−93 Synthesiology Vol.1 No.2(2008)回答(脇田 浩二)シームレス地質図は既存の20万分の1地質図に基づいて作成されるので、元の地質図において情報量が少なかったり、もしくは位置精度が低かったりする場合には、周辺の地質情報もそれに伴って情報量や位置精度が限定されます。第2種基礎研究として作成されたシームレス地質図は、どのような場所において重点的に第1種基礎研究を推進すべきか、どのような研究が必要かなどについて適確な指針を与えています。また、シームレス地質図では、広域の地質情報を従来よりも非常に詳しく表現しているので、異なる地層や岩石の関係などについて、基礎研究として見直すべき課題と調査研究対象の絞り込みにも役立っています。議論2 これまでに行われたシームレス化質問(小野 晃)隣接する地質区画の間で地質データを整合化すること(シームレス化すること)は、地質情報のデジタル化やインターネット配布が行われる以前のアナログの時代から行われていたのではないでしょうか。デジタル化やインターネット利用が始まって、整合化が本格的に取り上げられるようになったと考えてよろしいですか。回答(脇田 浩二)同縮尺の地質図におけるシームレス化はかつて行われていませんでした。大縮尺の地質図を小縮尺に作り直す、“編纂”が行われていたにすぎません。同縮尺の地質図におけるシームレス化は今回の研究の大きなチャレンジでした。議論3 グーグルアースのシームレス化との比較質問(小野 晃)グーグルアースがインターネットで利用されていますが、これの実現のためにはシームレス化が大きな問題の1つではなかったかと思われます。本研究とグーグルアースとの間で、シームレス化の方法で共通点や相違点があればご指摘ください。回答(伏島 祐一郎)グーグルアース実現のために、シームレス化は大きな問題とはなりませんでした。その最大の理由は、グーグルアースを構成する主要情報が、衛星画像や航空写真であるからです。これらは短期間に地表面を一様に写し取った情報で、時空間分布密度と精度は、地質情報に比べ圧倒的に均質です。撮影機材や雲量や日射や季節など、衛星画像や航空写真にもシームレス化(データの整合化)を行うべき要素は存在しています。しかしこれらの整合化も、地質情報とは比べものにならない程の膨大な情報量をもとにした、統計的なアプローチで順次解決に向かっています。目に見えない地中の限られた情報を、目に見える地表面の膨大な情報に比肩できる情報へと高められるように、地質図シームレス化のチャレンジがあります。議論4 外国の研究動向質問(小野 晃)シームレス地質図の作成は日本だけでなく、外国でも関心が高いのではないかと思います。外国の研究動向はどのようなものでしょうか。またそれらと比較して日本の研究レベルはどのようなものと評価されますか。回答(脇田 浩二)シームレス化について欧米での判断は2つに分かれます。フランスは20万分の1ばかりではなく、5万分の1地質図もシームレス化をしています。一方、英国はオリジナルをそのまま使うことを推奨しています。チェコなどの東欧や韓国などアジアの国々でも20万分の1に近い縮尺ではシームレス化が行われています。しかし、これらの国々と日本の地質については決定的な違いがあります。諸外国の地質に比べて、活動的島弧からなる日本の地質は非常に複雑でユニークです。安定した大陸地殻からなる欧米諸国の地質図は比較的単純であり、岩石や地層の研究が学問的に進展しても、地質図に大きな違いはありません。従ってシームレス化は非常に容易であったり、しばしば不要であったりします。しかし、日本の場合は、非常に複雑な地質で独自の地質モデルが必要である上、植生や土壌が多く、研究の進展によって、地質図は著しく変化していきます。この状況は現在も同じです。従って、簡単にシームレス地質図ができる、もしくは最初から隣接地質図が連続的にできてしまう欧米に比べて劣っているのではなく、日本列島は特殊な地質状況に置かれているため基礎研究の進展が直接地質図の精度向上に反映され、シームレス地質図を作成しなければ、より正確で分かりやすい地質情報を国民に提供できないと考えています。このような日本の特殊な地質状況を勘案すると、日本のシームレス地質図に関する研究レベルは、国際的にも高いレベルにあると自負しています。議論5 地質図幅の研究質問(佃 栄吉)本研究論文が(第2種基礎研究としての)新たな方向性を示していることについて異論はありません。一方で、今までの地質調査がすべて第1種とする論理展開は無理があると思います。地質調査には第1種、第2種の両方の要素があり、「地質図幅」は第2種に軸足があるものと理解しています。単に科学的発見のために実施されているものではないと思います。今までの地質図幅はある地域で行われてきた第1種基礎研究の成果を集約し、新たな知見も加味して、個別に最適化したものではあるものの、それなりに死の谷を乗り越えてきたものだと思います。シームレス地質図の研究は問題点を克服するための「新たな」死の谷を乗り越えているのだと思いますが、著者の見解はいかがでしょうか。回答(脇田 浩二)地質図の研究が、第1種基礎研究だけではなく、第2種基礎研究の側面も有するという点には異論はありません。(その点は本文中に記述しました。)しかし、「地質図の研究が第2種基礎研究に軸足がある」という点は同意できません。私が考える現在の地質図幅プロジェクトの位置づけでは、現在の5万分の1地質図(幅)は研究報告書であり、20万分の1地質図(幅)は一定の研究成果がその地域に集積されたときに出版される研究の集大成です。そのような位置づけであるため、それぞれの研究者がそれぞれのアイディアで記述しているので、同じ地層や岩石でも全く違った解釈が同じ時期の出版物に記載されています。研究者個人の判断で出版されない場合があり、データが少ない地域は社会的要請が高くても放置されます。地層区分の単位名でさえ、研究者の判断に委ねられ、統一されていません。その意味で、第2種基礎研究の社会的価値を高めるという努力がなされていないのが現状です。また、地質図(幅)の研究では、社会的価値を実現するための、一般性のある方法論を導き出すという「第2種基礎研究」の基本が行われていません。これらの欠点を補うために、シームレス地質図の研究を実施することになりました。地質図(幅)の研究について、この数年議論した結果として、地質図幅(特に5万分の1地質図幅)は、それぞれの専門分野について最新の研究を盛り込んだ、野外地質図の研究成果としての性格を強調しています。それぞれの専門分野で最新の研究を行うのに最適な地質図の作成を行い、その野外地質研究技術という標準を社会に還元していくスタンスであると考えています。本研究では、シームレス地質図の研究の特徴を際だたせるために、地質図幅の研究が第2種基礎研究の性格を有することを承知で、第1種基礎研究と単純化した側面もありますが、一方で、明治以来日本の地質図研究が担ってきた役割が、大きく変容している現実に即した対比であると認識しています。(12)−
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