Vol.1 No.1 2008
9/85

−−発刊に寄せて:第2種基礎研究の原著論文誌(吉川)Synthesiology Vol.1 No.1(2008)4 第2種基礎研究の原著論文 -ジャーナルの特徴ここまで明示的に述べてこなかったが、知識選択方法の決定、知識の選択、知識使用方法の決定、異なる領域知識の合体、臨時領域の設定などは構成的な行為であり、演繹、帰納などの大まかな論理の分類でいえば仮説形成すなわちアブダクションである。すなわちそこに、結果の一意性を保証するものはない。このことは、“何かを作り上げる”すなわち構成における本質的な性質である。構成されたものの正当性は必ずしも保証されず、ましてや最適性は望めない。その保証は、一般に構成とは別の過程で行われる。例えば理論研究における法則の導出は構成であるが、その正当性は従来の理論との整合性に関する演繹的分析や実験によって帰納的に検証される。人工物ではこのことは社会的使用によって行われる。このことからいって第1種基礎研究と第2種基礎研究とは全く違う。そして論理的構造を考えるといずれもアブダクションを含むが、アブダクションの全過程における重要性は第2種においてより大きい。しかも、第1種基礎研究ではこの検証の過程が、研究者自身か、そうでなくても同じ領域の研究者によって行われるのに対し、第2種基礎研究の場合は研究がおこなわれる世界とは関係のない一般社会で行われる。アブダクションを含む過程には成功するかどうかについて不確かさが伴い、それこそが独創性が問われるところなのであるから、この検証の違いは両者の独創性評価の違いを示すことになる。第1種基礎研究においては、研究結果として新しく得られた知識の、既存の知識体系への貢献の大きさで独創性が測られ、例えば前提として用いた仮説としての法則の導出過程は背後に隠れ評価対象にならない。一方第2種基礎研究では、研究成果はいずれ産業で製品化され社会で使用されてから評価されるのであるけれども、それは時間のかかることであり、研究成果が出た時点での評価にはなり得ない。したがってそこでは別の方法が必要であるが、それは“アブダクションの妥当性(validity of abduction[3])”で評価することである。評価の対象は社会貢献の構想、知識選択の方法の決定、選択過程と結果、そして臨時領域の設定であるが、これらはみなアブダクションであり、このジャーナルに投稿される第2種基礎研究の原著論文はこれらの詳細が記録され、社会の共有財産となると同時に評価される。これらを評価することがアブダクションの妥当性の評価であるが、その定式化もこのジャーナルの使命である。第1種基礎研究でも、社会への助言の重要性が認知されるに伴って同様の問題が起きつつある。助言が必要と決定した時用いた背景知識の選択と、みずからの領域の知識適用とがアブダクションで、それが助言の独創性を決めており、その最終的な評価は社会における助言の採択を通してしか行えないから、助言がされた時点では、アブダクションの妥当性の評価が求められることになる。この第一号に投稿されている論文は、研究所の歴史と2001年以来の本格研究への取り組みとを背景に、ここで述べたようなことについての様々な議論を経たうえ、第2種基礎研究とは何かについての一定の合意に基づいてそれぞれの著者が慎重に書き上げた初めての原著論文である。著者たちは、これも初めて選ばれた査読委員と数回の往復をする過程で、さらに第2種基礎研究の原著論文の概念を進化させつつ、ここに出版の運びとなった。前章までに述べたように定型化された表現方法が過去にない中で、一つの方法が共通にとられていることに注目していただきたい。それは設定した社会貢献の正当性を主張し、その実現のためのシナリオを描出し、シナリオを遂行するための知識選択の方法が案出され、そして明示的でないにせよ選択した知識を使用する場としての臨時領域の設定が行われていることである。設定された臨時領域では第1種基礎研究と呼べる研究もおこなわれている。ここには前述のように四つの構成的行為があり、したがって四重のアブダクションがある。これらの、主張、描出、案出、そして設定の方法や内容は論文によって異なっているが、これらはいずれも、行為を表現する伝統的方法としての作法、技能、慣習、儀礼などとは截然と違って、研究行為の論理的構造を明示しているのである。[1] [2][3]吉川弘之 : 科学者の新しい役割、136-185, 岩波書店,東京 (2002).T. Kuhn : The Structure of Scientific Revolutions, University Chicago Press, Chicago (1962).C. S. Peirce : Collected Papers of Charles Sanders Peirce, Vol.2 (Elements of Logic), 59, Ed. by C. Hartshone and P. Weiss, Thoemmes Press, 1931-58 edition.参考文献

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です