Vol.1 No.1 2008
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−−発刊に寄せて:第2種基礎研究の原著論文誌(吉川)Synthesiology Vol.1 No.1(2008)い。また実現する対象が第1種では知識であるが第2種では人工物である。生み出されたものが知識である場合はその正当性が論理的に検証されるが、実在の人工物の場合はその正当性を社会における使用を通じて承認するしかない。この違いが次のような特徴を生む。(1)第1種では与えられた領域内知識群から何を選出し、またそれを使うためにその領域で許された方法の中から可能な方法 (解析あるいは実験)を選択するのが研究者の独創であるが、第2種では、領域にこだわらずに知識群を自ら設定すること、その中から必要な知識を選出すること、そのうえでその知識を使う方法(解析あるいは実験)を知識ごとに違う多様な可能性の中から研究者自ら選択し、それらを統合して使わなければならない。(2)第1種では、実現したものは知識であり、良いものは領域ごとに既存の知識体系に組み込まれる。しかし第2種では実現したものは人工物であり、良いものは社会的に使われる。さて、この二つの特徴をみると、両者の違いがいわば “二次元的”であることに気付く。ひとつは知識の使い方が違う点であるが、これは行為上の違いである。もう一つは実現した結果の意義であるが、これは受容者の違いである。これを表にしてみる。 この表で明らかになるように、二次元的差異があるから4つのカテゴリがあっても良いのに、(A)および(B)の欄が空欄である。このことはこれらの研究が第1種は知識生産を目的とし、第2種は社会貢献を目的とするという歴史的発生にたまたま依存しているだけであって、必然的なことではない。そしてそれは、社会と学界との隔離をもたらす原因ともなっていて、解消すべきものである。第1種基礎研究の場合、現代ではその社会的貢献が大きく期待されるようになり、知識提供だけでは不十分であると考えられている。この期待は、近年では気象学における気候変動への警告、あるいは生物学における生命倫理への寄与など、多様な科学者による助言という貢献が一般的となったが、これは(A)を充足するものである。一方、第2種基礎研究は、すでに述べたように知識体系への効果がなくては“基礎”研究とは呼べないのであり、(B)の部分の欠落は許されない。ここで、この欠落している(B)の部分とはいったい何なのかが明らかにされなければならない。伝統的には、人工物を実現する研究では、上述のように実現した人工物が社会にその評価を委ねるべく研究者の手を離れてゆく。その結果、人工物そのものの構造や機能に関しては公共的に知られ共有財産となるが、その実現過程は記録されず消滅してしまう。ここで上述の第一の特徴が思い起こされなければならない。第1種では、その過程はほぼ研究者の間で定式化され共有されていて、選ぶ知識の新しさについての独創性はあるが選ぶ方法自体に固有の独創性はない。しかし第2種では、知識の選び方がはるかに多様で、定型化されたものは何もなく、そこにまず独創性が求められるのである。それなしには実現しようとする人工物が独創的なものとなるために必要な知識の独自性は期待できないのであって、選ぶ方法は研究の重要な要素である。それにもかかわらず、研究ごとに行われた努力を記録する方法がない。その結果、第2種基礎研究を行った者の評価が正当に行われず、報われることがない。このことは社会的に見れば研究者の努力の結果が社会の共有財産とならないことを意味し、多量の人工物を生み出すために多くの知的作業が行われている現代における大きな社会的損失といわなければならないであろう。これの解消、すなわち知識選択についての記録およびその体系化は、(B)の一つの充足である。(B)にはもう一つの課題がある。上述のように複数の領域から知識が選ばれると、その知識を統合する作業に入る。これも定式化した方法はないのであって、研究ごとに固有の方法が求められる。統合された知識を“臨時領域”と呼べば、それが出来てはじめて人工物実現を目指した合理的な思考が研究者にとって可能となる。この臨時領域は一般に独創的なものである。しかしこれも一般には記録されず消滅してしまう。人工物が社会的に認知された大きな市場を持つ場合に限り、それは名前を与えられて記録されることもあるが、例外である。熱機関学、自動車工学、航空機工学、などはかなり成熟しているが、多くはあったとしても知識を並列に記したもので成熟度は低い。しかも新しい分野の新しい人工物については何もない。問題は、これらの工学と呼ばれる臨時領域は一般性を持っておらず、他の分野には適用できないばかりでなく、それを作る方法が示されていないことである。今必要なのは、過去に行われた臨時領域設定の経験に学びつつ、独創的な臨時領域の設定を個々の研究ごとに記録し、それらの一般的な方法を見出すことであり、それは(B)の課題である。これらの課題が充足された時、私たちは第2種基礎研究を真に基礎研究であるといってよいことになる。その課題を充足するものが、新しいジャーナル、第2種基礎研究の原著論文誌である。行為受容 単一領域知識 領域無限定知識学界(知識体系)への効果 第1種基礎研究(B)社会(現実的価値)への効果(A)第2種基礎研究
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