Vol.1 No.1 2008
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論説:科学と社会あるいは研究機関と学術雑誌(赤松ほか)Synthesiology Vol.1 No.1(2008)−64−構成のプロセスを見失うことになる。まさに、ベーコンが避けるべきとしたイドラとの戦いがある。しかしながら、科学的知識を社会に役立てるための原理原則が見いだせていない現在において、まず行なうことができるのは、科学技術の社会還元のための当為的知識、すなわち何をなすべきかに対する知識を蓄積していくことである。これまでの自然科学における事実的知識の蓄積の方法である細分化に陥ることなく、その方法を模索していかなければならない。8 おわりに 科学技術と社会とのギャップを埋めるための学術ジャーナルの発刊にあたって、学術ジャーナルの意義について、科学史を手掛かりに探ってみた。何故、学会ではなく公的研究機関が学術ジャーナルを発行するのかと疑問を持っている方も多いかと思うが、学会と研究機関とは起源が同じであると考えると、互いに対等な立場で成果を出し合える研究機関が研究成果を集積するための学術ジャーナルを発行することは、何ら不思議なことではないと理解いただけたことと思う。また、科学技術の社会還元という考えは、伊東俊太郎,村上陽一郎編:西欧科学史の位相, 培風館,東京 (1989).マーク・エイブラハムズ(福嶋俊造訳):イグ・ノーベル賞,阪急コミュニケーションズ,東京(2004).D.S.L.カードウェル(宮下晋吉、和田武監訳):科学の社会史:イギリスにおける科学の組織化, 昭和堂,京都(1989).H.カーニイ(中山茂、高柳雄一訳):科学革命の時代:コペルニクスからニュートンへ,平凡社,東京(1983).金子努:オルデンバーム:17世紀科学・情報革命の演出者,中央公論新社,東京(2005).I. Bernard Cohen: Revolution in Science, Harvard Univ. Press, (1985).Lisa Jardine: Ingenious Pursuits; Building the Scientific Revolution, Anchor Books, (1999).スティーヴン・シェイピン(川田勝訳):科学革命とは何だったのか,白水社,東京(1998).ピーター・バーグ(城戸淳,井山弘幸訳):知識の社会史, 新曜社,東京(2004).ポーラ・フィンドレン(伊藤博明、石井朗訳):自然の占有:ミュージアム、蒐集、そして初期近代イタリアの科学文化,ありな書房,東京(2005).メルヴィン・ブラッグ(熊谷千寿、長谷川真理子訳):巨人の肩の上に乗って,翔泳社,東京(1999).古川安:科学の社会史, 南窓社,東京(1989).J. R. Jacob: The Scientific Revolution; Aspirations and Achievements, 1500-1700, Humanities Press, (1998).バーナード・コーエン編(村上陽一郎監訳):マクミラン世界科学史百科図鑑2,原書房,東京(1993).(受付日2007.10.3)図4 知識の樹:ディドロの『百科全書』[14]『百科全書』は18世紀にドニ・ディドロによって編纂された、科学技術を中心とした芸術や歴史を含むあらゆる知識を体系立てて網羅した壮大な辞書である。この知識の樹は知識の分類を表している。「自然の科学」は数学と自然学(physic)に分かれ、自然学はさらに個別自然科学で分けられ、天文学、気象学、植物学、動物学などに分類されることが、この図の樹木の枝分れによって表現されている。近代科学を興したといえるベーコンの思想そのものであり、科学の原点ともいえ、その目的のために学術ジャーナルが始まった。しかし、例えば要素還元論などの科学のこれまでのいとなみに、科学と社会との間にある死の谷また悪夢と呼ばれるギャップを超えられなかった一因があるのであれば、ギャップを乗り越える新たなる科学技術の方法論を構築していかなければならない。技術シーズを探すといった社会の側からのギャップを埋めるアプローチに頼るのではなく、科学技術の側からのアプローチとしての方法論を確立していくことが科学技術の研究者集団としての責務であるといえる。そのために原点に立ち戻ろうというのが、このジャーナル発刊という試みであろう。[1][2][3][4][5][6][7][8][9][10][11][12][13][14]参考文献執筆者履歴赤松 幹之(あかまつ もとゆき)1978年慶応義塾大学工学部管理工学科卒業、1984年同大学大学院博士過程修了。工学博士。1986年製品科学研究所(当時)入所。現在、人間福祉医工学研究部門部門長.これまでに、触覚機能、バイオメカニックス、ニューラルネット、大脳生理、ヒューマンインタフェース、認知行動モデルなどの研究に従事。常に、技術を使う側の人間という立場から技術や科学を見てきた。最近は、企業との共同研究を多数実施。
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