Vol.1 No.1 2008
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−58−研究論文:耳式赤外線体温計の表示温度の信頼性向上(石井)Synthesiology Vol.1 No.1(2008)黒体装置などを用いて、検証・評価を行うことにより、トレーサビリティの普及と併せて、将来的にはより安定な体温計が開発されることが期待できると考えます。 これに対し、②については、人間の体という“ばらつきを持つ測定対象”に対する信頼性を確保するものであり、①のケースとは、異なるアプローチが必要となります。本文中でも述べたように、現在の耳式体温計では、型式ごとに異なる測定視野を持ち、測定部位についても、必ずしも“鼓膜”そのものではなく、多くの場合“鼓膜を含む耳道内面”を測定しています。一般的に、鼓膜とその周囲の耳道部には、有意な温度差(温度分布)が生じることがあり、さらに、鼓膜と周辺耳道部の皮膚表面では、放射率にも違いがあります。従って、1個の耳式体温計で同一の被験者を繰り返し測定した場合でも、耳式体温計の押しつけ方向の違いなどから、測定データが大きなばらつきを示すことが起きやすく、さらに、測定視野の異なる耳式体温計の指示値に不整合が生じることも現状では、やむを得ない部分があります。 これらの問題については、①のように、“物理的に正しい黒体装置”による工学的評価では、必ずしも検証を行うことはできず、医学的知識を前提とした臨床的評価を実施して、信頼性向上を図ることが不可欠となります。耳式体温計の開発の立場からは、“鼓膜だけを選択的に測定するような体温計”や“一度の測定の間に、一定数の測定を繰り返し行い、その中の最高温を測定結果とする方法”さらには、“測定結果をそのまま結果とせず、体温計の特性に基づいたデータ処理を行い、腋下温や舌下温へ変換した値を表示する方法”などが研究開発されています。一方、現在進められている国際標準化(ISO/IEC規格)作業においても、耳式体温計を臨床的評価の必要な体温計として分類し、標準黒体装置による工学的評価と併せて、有熱患者を含む被験者を対象とした臨床的評価を実施し、統計的な方法による臨床的信頼性の検証の実施が提案されています。この場合、工学的評価結果については、本文でも述べたように0.2 ℃の不確かさの実現が厳密に要求されますが、臨床的評価については、統一的な数値規定ではなく、ユーザーに対する評価結果の適切な情報公開が要求されています。 将来的には、これら2つの性能評価がそれぞれ適切に行われ、製品技術へフィードバックされることにより、ユーザーレベルでより高い信頼性の確保が可能となると考えます。議論8 将来の検定制度導入の可能性質問(小林 直人) 議論7の質問とも関連しますが、最終的には耳式体温計も検定により全品検査が行われることが望ましいのでしょうか。そのためには技術開発が飽和し、いわば「枯れてくる」ことが必要なのだと思われるのですが、それはいつ頃になりそうでしょうか。あるいは技術がどの程度の段階にまで達すれば、そうなると考えればよいのでしょうか。回答(石井 順太郎) 本文中にも述べたように、検定とは、計量器の性能を法律(計量法)に基づいて国の責任と権限の下で検査し、国内において一定水準以上の計量の実施を確保するものです。国の直接的な関与が大きい制度であるため、ユーザーにおける信頼感が高い反面、メーカーへは、製品開発や市場化に対する規制要因となる場合も想定されます。前記回答2でも述べたように、耳式体温計に関しては、長期的安定性の向上を始め、臨床的評価に対する信頼性を向上するための製品技術開発が引き続き行われており、技術的拘束力の強い検定制度への移行には、少なくとも5年程度の時間をかけて製品技術の動向を精査することが必要であろうと思います。さらに、最近、耳式体温計の原理を応用した新型の皮膚体温計などの製品も開発されており、これら新型機器を含めた技術的な検討を行うことも将来の課題となると思われます。 本文では、国内において耳式体温計の製造・販売が急速に拡大した当時の検討内容をその技術面から紹介していますが、将来、耳式体温計を計量法の特定計量器としてあらたに指定する場合には、技術的な評価だけでなく、国内メーカーの企業活動に対する経済的な影響や海外メーカーの国内市場参入への影響の他、医療機器を対象とした薬事法(厚生労働省所管)との関係などについても十分な検討が必要となります。FTA(自由貿易協定)に代表される貿易自由化の世界的な流れの中では、国の関与の大きな検定の実施は、国民の安全や通商の信頼性の確保において、必要かつ十分な対象にとどめ、国際規格への適合性やトレーサビリティの確保などを条件としたルール作りが国際的にも強く求められています。また、前記回答2においても述べたように、ユーザーレベルでの最終的な信頼性の確保のためには、計量標準の整備や工学的評価方法の確立に加えて、医学的な知見を含めた臨床的評価も重要となるため、計量法と薬事法の双方において、より合理的なアプローチを検討することも重要な課題となると考えます。

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