Vol.1 No.1 2008
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−−発刊に寄せて:第2種基礎研究の原著論文誌(吉川)Synthesiology Vol.1 No.1(2008)たえる基礎研究を実施することが必要となる。それは欧米にとどまらず、広く途上国でも一般的なこととなってきた。その中で、わが国も独自の変革が必要だったのであり、工業技術院傘下の研究所の統合はそれを満たすものの一つであった。この統合が真に変革である理由は、それが単なる組織の統合でなく、一人ひとりの研究者にとっての統合であったからである。15研究所は解体され、3,000人に及ぶ研究者が産業技術に貢献するべく定められた目的を持つ60の研究ユニットを作る。研究者は、かつて所属した研究所と関係なく産業への貢献を動機としてユニットを選ぶ。その結果、各研究ユニットは多くの研究分野の研究者が混在するものとなった。このようにして、学問領域によって組織するのでなく、目標によって組織された研究者集団が実現する。この研究ユニットは、研究の自治をもち、ユニット長の責任において自由に研究を遂行する。しかし自由ではあるが、産業への貢献について明確な目標を持つことが要請される。それは、基礎研究を遂行すると同時に現実の産業にも資することである。したがって、ユニットの研究者 (3,000人の研究者が60のユニットに分かれた結果、ユニット当たりの研究者数の平均は50人であるが、実際は分布し、10人から250人とさまざまなサイズの研究ユニットが存在する)には基礎研究に従事する者と産業化をおこなう者がいなければならないことになる。伝統的には、両者はそれぞれ別種の研究者が遂行するばかりでなく、一般に組織としても分かれている。最大の区分は、基礎研究は大学で、製品化は企業でというものである。同じ基礎研究の中でも、大学の理学部と工学部のように、さらに細分される。基礎研究の成果を産業が使用するためには両者に効果的な関係がなければならない。それは、産学連携、知財のライセンス、ベンチャーなどであるが、それらが十分でないことは世界共通の認識で、さまざまな方法が試みられているが必ずしも成功していない場合が多い。基礎研究と産業化が連続的につながらないことは一般的に言われていたし、それぞれに従事する研究者が協力することが容易でないことも長い間問題とされながら解決できないものであった。しかし産業技術総合研究所で新しく生まれた研究ユニットには、基礎研究と産業貢献の同時実現が厳しく要請されている。ここで一般の基礎研究を第1種基礎研究と呼ぶことにすれば、第1種基礎研究者と産業化研究者とをつなぐ新しい研究者群の存在が不可欠である。それが第2種基礎研究と呼ばれる研究を行う研究者であり、その結果研究ユニットには異なる三種類の研究者、すなわち第1種基礎研究者、第2種基礎研究者、そして製品化研究者を擁するものとなる。この研究者集団が推進するのが本格研究である。3 第2種基礎研究と知識 -ジャーナルの使命この第2種基礎研究を著者のオリジナリティを保証する原著論文として発表する場を創出するために発行するのが、新しいジャーナルである。したがってここで、第2種基礎研究を定義する必要があるが、それは多様なもので、現在のところ簡単に、しかも完全に定義する方法がまだできていない。このことについては、筆者がやや詳細に論じたものがあるので参照していただくこととし[1]、ここでは一応次の定義をもとにそれを論文とすることの意義を考察することにしよう。その定義は、“異なる領域知識を統合あるいは必要な場合には新知識を創出し、それを使って社会的に認知可能な機能を持つ人工物 (ものあるいはサービス)を実現する研究”というものである。改めてこの定義をみると、この行為は発明や産業における製品創出などにおいてすでに広く行われていることであって、特に新しいことではないことに気付く。しかし私たちはそれらを研究とは呼ばなかった。ことに、基礎研究と呼ぶことはまったくなかったと言えるであろう。したがって、ここでこれらを第2種基礎研究と呼んで基礎研究の一つの形態であるとすることの可能性をここで明らかにしておく必要がある。まず基礎研究とは何かを考える必要がある。目的基礎研究という分類があることから言えば、形容詞のつかない基礎研究には目的性がないといえる。とくに限定して自然科学の基礎研究を考えると、それはすでに得られた自然科学知識体系を前提としつつさらに新しい知識を生み出すことによって、自然科学知識体系をさらに豊かなものにすることである。厳密にいえば、「豊かなものにする」という以上、どのような豊かさを求めるかによってきまる価値観に科学的知識体系は依拠しているのだが、それは個々の研究者には必ずしも意識されないことであり、その意味で目的性がないといってもよいであろう。研究する者の個々の研究においては知識体系充実以外の目的がない、言い換えれば現実の社会的行動に役立つことを当面の目的としていない基礎研究なのであるが、出来上がった知識体系は個々の研究者の意思とは関係なく大きな効用を現実の社会行動に対してもつのが一般である。それは、現代の技術のほとんどすべてが科学的知識を背景としていることを考えれば、自明のことである。このことから、次のように言うことができるであろう。基礎研究の “基礎”とは、その上に現実的な社会的行動を支持する基

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