Vol.1 No.1 2008
59/85

−56−研究論文:耳式赤外線体温計の表示温度の信頼性向上(石井)Synthesiology Vol.1 No.1(2008)図b 移送標準器の選択黒体空洞の移送黒体空洞の返却耳式体温計群の移送耳式体温計群の返却黒体装置の移送黒体装置の返却校正校正校正標準黒体装置 (国家標準器)(産総研に所在)実用黒体装置(製造事業者の工場に所在)能劣化などが理由と考えられます。 市販の耳式体温計を確実に±0.2 ℃以下の許容誤差に収めることを目標とする場合、耳式体温計自体の技術開発目標として、標準温度に対する最低1年程度の長期安定性が確保される構造・仕様とすることが必要であると考えます。 さらに、医療機関などで使用される体温計の精度管理のためには、製品出荷時の精度確認だけでなく、年1回程度の定期的な性能チェックの実施も有用です。このような性能チェックのためには、医療機関の現場や体温計の販売代理店などにおいて、使用できる簡易型の黒体装置の開発・普及なども必要であると考えます。 また、本文中にも述べたように、現在の黒体装置に対する輝度温度のトレーサビリティ体系においては、黒体装置同士の比較校正のときに発生する不確かさが相対的に大きな値(ばらつきが標準偏差で0.03 ℃程度)となっており、体温計メーカが自社内において、黒体装置(群)の階層的な精度管理を実施することは困難な状況であると認識しております。これに関しては、不確かさの小さい黒体装置同士をより小さな不確かさで比較測定するための技術開発が必要であると考えます。これまで市販の高分解能な耳式体温計群を輝度比較器として使用してきましたが、現在、耳式体温計よりも測定のばらつきの小さい高性能な赤外放射温度計の開発に取り組んでおり、0.01 ℃程度のより小さな不確かさでの輝度比較校正の実現に向けて良好な実験結果を得ております。議論2 実用黒体装置の校正における他の方式質問(小野 晃) 産総研の標準黒体装置に対して体温計製造事業者の実用黒体装置を校正する方式には、本論文で述べられている直接の比較校正方式のほかに、移送標準器として体温計自身を使う方式が考えられると思います。また体温計製造事業者の黒体装置から黒体空洞を取り外し、それを産総研に移送して標準黒体装置で校正する方式も考えられると思います。直接校正方式と比べて、これらの校正方式をどのように評価していますか。回答(石井 順太郎) 輝度温度目盛のトレーサビリティ実現のための移送標準器と校正スキームを図bに示します。・耳式体温計を移送標準器とする方法について 耳式体温計を移送標準器とする場合、より大型の黒体装置と比較して移送の負担が小さく、事業者等において、標準の体温計を用いて、複数の黒体炉装置を校正することも比較的容易であるなどのメリットを持ちます。ただし、標準の輝度温度目盛は、移送標準器となる耳式体温計に設定・維持されるため、温度分解能などの基本性能に加え、優れた移送安定性や長期安定性が要求されます。 産総研では、黒体装置の移送による直接比較校正スキームと併せて、耳式体温計を移送標準器とする校正スキームについても、実験的な検証を行いました。実験の結果、体温計群を移送標準器とするスキームでは、校正結果のばらつきの程度が0.05 ℃~0.1 ℃と大きな値となることが示されました。このばらつきの大きさは、耳式体温計の安定性・再現性の程度に起因するものであり、黒体装置の校正結果の不確かさとして直接反映します。従って、開発目標である0.07 ℃以下の校正不確かさの実現が困難となることから、校正スキームとして導入はできませんでした。この方法については、将来、安定性・再現性に優れた仲介標準器(放射温度計)の開発が成功した場合、あらためて検討対象となるべきものと考えております。・黒体空洞の移送による方法について 耳式体温計用の黒体装置の場合、装置構成として、温度分布の十分に小さい恒温水槽装置に熱放射体となる黒体空洞を設置して、空洞底部付近の水温を参照温度計により測定します。恒温液槽装置は、市場において入手可能な機器を用いて0.01 ℃程度の温度均一性を実現することが可能であり、長期的な機器管理についても、参照温度計用のような温度分解能の高い接触式温度計を用いて槽内温度分布等のパラメータを定期的にモニターすることが容易です。 一方、黒体空洞については、性能指標である空洞の放射率が、空洞の形状・材質だけでなく、空洞内壁の塗装・コーティングの性状とその劣化によって大きく変化することが想定され、体温計製造事業者や試験検査機関が独自にこれを定量評価することは容易ではありません。従って、事業者の黒体装置から黒体空洞のみを取り外して、産総研に移送し、性能の確認されている産総研の恒温水槽装置に設置して、国家標準の黒体装置(黒体空洞)との間で輝度温度の比較測定を実施することができれば、実質的に黒体空洞の放射率値を校正することが可能と考えられます。この場合、校正依頼者は、大型の精密恒温水槽装置を移送することが不要となるとともに、交換可能な(標準)黒体空洞を複数校正して、群管理を行うことにより社内での長期的な計量管理も可能になるなどのメリットを持ちます。 この標準供給スキームが実現すれば空洞放射率の校正という世界的にもユニークで合理的な標準供給システムとなると期待されましたが、調査の結果、体温計製造事業者が保有する既存の黒体装置では、黒体空洞の形状や仕様にばらつきが大きく、空洞部を取り外して移送することについても困難なケースが報告されたため、実際の導入には至りませんでした。議論3 国際標準化の動向質問(小野 晃) 今回の論文は耳式体温計用の計量標準の話がメインでしたが、標準化も重要なポイントと思います。耳式体温計の国際標準は現在どのような状況ですか。回答(石井 順太郎) 本文中にも紹介したように、耳式体温計の標準化については、我が国のJIS規格の他、米国ASTM規格、欧州EN規格等が製品規格として制定されています。 2005年より、電子体温計と耳式体温計を主な対象として、新たな国際規格化の作業がISOとIECの共同提案により進められています。この国際標準化作業については、筆者もエキスパートメンバーとして、国際ワーキンググループ活動に参画しております。2007年10月時点において、下記委員会提案文書が作成されています。ISO/IEC CD.2 80601-2-56, “Medical Electrical Equipment – Part 2-56, Particular requirements for basic safety and essential performance of clinical thermometers for body temperature measurement”, ISO/IEC (2007).議論4 感染拡大防止への耳式体温計の活用方法質問(小野 晃) 鳥インフルエンザのウイルスが突然変異して世界に蔓延した場合、人類に及ぼす大きな脅威が警告されています。2003年にアジア諸国でSARSが流行したときに、国内に感染が広がった台湾、シンガポール、中国、香港などの経験は、将来の日本にとって参考になるのではないかと思います。公共の場における体温測定では、どのような点が重要になると思われますか。またそのときの耳式体温計はどのような役割になると考えますか。

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です