Vol.1 No.1 2008
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−54−研究論文:耳式赤外線体温計の表示温度の信頼性向上(石井)Synthesiology Vol.1 No.1(2008)盛の直接比較を行った。国際比較の測定結果から各国の標準が、それぞれが主張する不確かさレベル(0.03 ℃程度)で良く一致している事が確認された。この国際比較測定の結果は、体温域における標準黒体装置に関する世界的に初めての報告例として、その後の国際比較測定のモデルケースとなった。産総研ではその後、アジア太平洋地域においても、オーストラリア国立標準研究所(NMIA)との間で同様の比較測定を実施して、良好な測定結果を得ている。8 研究成果のまとめ 産総研では、新型の耳式体温計の信頼性確保に向けて、国家計量標準研究機関として研究開発に取り組み以下のような成果を得た。-高精度な(不確かさレベル0.03 ℃の)国家標準器(標準黒体装置)を開発した。-実用黒体装置の校正のために輝度温度のトレーサビリティ体系を考案し、整備した。達成した校正の不確かさレベルは 0.06 ℃である。-外国の国立標準研究機関との間での比較測定によって国家標準器の国際整合性を検証した。また第三者認証制度によって校正サービスの品質を確保した。 これらの成果は、体温計製造事業者の保有する標準設備に一定の自由度を保ちながら、体温計の校正・試験に要求される信頼性(不確かさレベル 0.07 ℃)を確保するシステムとして運用されており、国内において製造・販売される耳式体温計の表示温度の信頼性向上に貢献するものである。9 SARSの感染拡大防止への国際協力 産総研での耳式体温計の標準開発と評価技術への取り組みは世界的にも先進的なものであり、その成果は外国からも高く評価されている。2003年にアジア地域を中心にSARS(重症急性呼吸器症候群)が発生し、国際的な危機にみまわれたが、シンガポールや台湾などの国立計量標準機関の要請を受け、産総研の開発した標準黒体装置や技術をすみやかに提供し、空港や港湾における有熱患者のスクリーニングに貢献した。この活動は、安心・安全に関わる重大な社会問題に対する計量標準技術の国際的な研究協力の事例として高く評価された[3]。10 おわりに これまで、新型の耳式体温計のための計量標準の整備と技術の普及の取り組みについて述べてきた。赤外線方式という従来とは全く異なる測定原理による体温計に対して、体温計ユーザの信頼感の獲得と、国内の体温計製造事業者の国際競争力の強化という目的のために新たな計量標準の開発と整備を行った。産総研では、それまでに培って来た放射温度標準や精密赤外放射計測技術を要素技術として、世界的にも最高水準の国家標準器を開発するとともに、高品質の標準が広く産業界やユーザに利用されるためのトレーサビリティ体系を構築した。これらの成果は、産総研からの標準供給サービス・標準化プロセスなどを通じて、体温測定の信頼性向上に大きな貢献を果たしたものと考える。謝辞 本研究開発において、計測標準研究部門の福崎知子研究員をはじめとする産総研内外の多くの関係者の皆様の協力・支援を頂いたことに感謝いたします。図8 体温域標準黒体炉の国際比較の結果○産総研、 △ 英国立物理学研究所、□ドイツ物理工学研究所黒体温度 / ℃各国黒体装置の輝度温度とそれらの平均値との差 / ℃37.0 ℃41.5 ℃35.5 ℃-0.05-0.01-0.02-0.03-0.0400.010.040.030.020.05用語説明用語1:輝度(放射輝度):光源の光放射について、単位時間・単位面積・単位立体角あたりに特定の方向に放出される放射エネルギーの量。単位[W·sr-1·m-2]。用語2:プランクの熱放射則:理想的な黒体の熱放射特性(温度と分光放射エネルギーの関係)に関する法則。1900年にプランクによって定式化された。現実の物体では、放射率が1より小さいため、プランクの熱放射則に放射率を乗じた放射特性を有する。用語3:放射率:熱光源の放射性能を表す指標。理想的な黒体の場合には、放射率は1となり、現実の熱放射源は、0と1の間の値となる。一般に、材料表面の放射率は材質とともに、波長、角度、表面粗さなどにも依存して変化する。用語4:トレーサビリティ:国際標準や国家標準を基準として、比較(校正)の連鎖により、ユーザレベルの計測機器に至る計量管理システムの総称。用語5:欧州規格(EN):“European Norm”(European Standards)欧州連合(EU)の専門委員会であるCEN(欧州標準化
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