Vol.1 No.1 2008
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−53−研究論文:耳式赤外線体温計の表示温度の信頼性向上(石井)Synthesiology Vol.1 No.1(2008)装置と製造事業者の実用黒体装置とを結ぶ具体的な校正方法の検討を行った。5章で述べたように、輝度温度の国家標準器として産総研は標準黒体装置を開発したが、製造事業者の実用黒体装置を産総研に移送して標準黒体装置で校正するか、あるいは産総研の標準黒体装置を製造事業者に移送して実用黒体装置を校正することとした。6.1 校正の不確かさの推定 標準黒体装置によって実用黒体装置を校正するときの不確かさを推定するために模擬校正実験を行った。産総研に、国家標準器である標準黒体装置の他、模擬校正用の黒体装置を別途準備した。複数の体温計メーカから提供された高分解能(表示分解能0.01 ℃)の耳式体温計を計4型式(各型式ごとに3個程度の体温計)準備し、それらを輝度温度の直接比較のための温度計として用いた。実験では、産総研の標準黒体炉と模擬校正用黒体装置を同時に運転し、輝度温度値を校正する温度(例えば、37.0 ℃)に安定化させた。それぞれの参照温度計の温度値をモニターしながら、高分解能耳式体温計を用いて、2つの黒体装置の輝度温度の差を測定した。それぞれの体温計ごとに10回程度の測定を繰り返し行い、輝度温度差の平均とばらつきを評価した後、参照温度計の温度値のずれを補正し、校正結果を算出した。 図6に検証実験の結果を示す。2つの黒体装置の輝度温度差の平均値は、ばらつきの範囲内でほぼゼロに近い値となっている。しかしながら、校正値のばらつき(標準偏差)については、0.03 ℃程度であった。このばらつきの値については、黒体装置の輝度比較校正において、付加的に発生する不確かさ要因となる。これらの結果から、標準黒体装置自身の輝度温度目盛の不確かさと比較測定の不確かさを合成した校正結果の不確かさとして、およそ0.06 ℃(95 %信頼区間)を実現した[11]。この不確かさは、実用黒体装置に要請される不確かさレベル(およそ0.07 ℃以下)を満足するものである。 6.2 持ち回り測定による校正の不確かさの検証 前節で述べた模擬校正実験を通じて推定した不確かさのレベル、および校正スキームの妥当性を検証するため、産総研と体温計製造事業者との間で共同測定実験を行った。持ち回り測定実験では、産総研が移送可能な標準黒体装置を製作した。その標準黒体装置を国内体温計メーカ7社へ順次移送して持ち回り、各社の実用黒体装置の輝度温度との偏差を測定した。 図7に測定結果を示す[14]。比較測定結果は0.03 ℃程度のばらつきを持つが、各社の実用黒体装置の輝度温度目盛が産総研の標準黒体装置のそれと比較して、概ね0.05 ℃以内の偏差に収まることが確認された。このことは、体温計製造事業者の実用黒体装置の輝度温度が0.07 ℃以下の不確かさで確実に校正できることを示しており、耳式体温計の校正・試験の要求が十分満たされると結論された。7 校正サービスの体制と国際同等性の検証 計量標準の整備においては国家標準の開発・供給と併せて、我が国の国家標準と校正サービスが他の国と同等かどうかを検証することが重要な課題になっている。この目的のため、産総研において実施する耳式体温計用の実用黒体装置の校正サービスに対して、ISO/IEC 17025規格用語8に準拠した品質システムを整備した。これにより第三者認証に基づいた校正サービスの質の確保を行っている。 産総研が開発した国家標準が他の国の国家標準と整合しているかどうかを検証するために、ドイツおよびイギリスの国立計量標準研究機関との間で国際的な比較測定を実施した。図8はドイツ国立物理工学研究所(PTB)及びイギリス国立物理学研究所(NPL)との間で実施した国際比較測定の結果である[15]。産総研とドイツPTBのそれぞれの標準黒体装置を英国NPLに移送し、相互の輝度温度目図6 実用標準黒体炉の輝度温度校正の検証結果図7 体温計製造事業者との持ち回り測定結果黒体温度は37 ℃。A~Gは参加事業者。黒体温度 / ℃被校正黒体装置の輝度温度差 / ℃403735-0.2-0.10.00.20.1BCDEFGA産総研標準黒体装置との輝度温度差 / ℃-0.10.10.050-0.05
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