Vol.1 No.1 2008
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−51−研究論文:耳式赤外線体温計の表示温度の信頼性向上(石井)Synthesiology Vol.1 No.1(2008)準へのトレーサビリティが確保されている接触式温度計を参照温度計に用いることにより、体温計製造事業者が一定水準以上の校正・試験を実施することが可能となると期待される。 この様な計量管理システムが導入できれば、(1)国による新たな標準供給サービスを導入することがなく、国の負担は増加しない、(2)計量法による規制の導入(4.1節)と比較して、将来の製品開発の進展に柔軟に対応した校正・試験技術や標準設備の高度化が容易であり、製造事業者における独自の試験技術の開発や効率化も阻害しない、などのメリットがある。しかし一方において、工業標準という任意の制度に全面的に依存する方法は、法規制のような強制力を持たないため、技術や設備の導入・運用は、あくまでも体温計製造事業者の判断と責任によることになる。さらに、標準設備を含む技術情報の共有については、文書化された情報にほぼ限定されるため、現場において適確に運用されないリスクも持つ。 産総研は、標準化委員会等の場を通じて、耳式体温計の製造・販売事業者の使用している標準設備や管理・運営方法についてのアンケート調査を実施し、また実際に製造事業所を訪問調査して、上述の計量管理システムの導入の適否について技術面からの検討を行った。その結果、多くの製造事業者では、すでに耳式体温計の製造・検査プロセスが大規模化しており、各社が独自に製作した標準設備(実用黒体装置)が数多く先行的に導入・運用されていた。このため当時の状況下において、産総研が主導して実用黒体装置の標準化を実施した場合でも、各社が直ちに標準設備を更新することは、経済的理由から困難であると判断された。さらに国内体温計製造事業者は、総じてそれまで、水銀体温計やサーミスタ型の電子体温計に関しては高い技術を持っていたが、原理的に大きく異なる黒体装置の管理・運用について必ずしも高度な技術的蓄積がなく、黒体装置の標準化のみによる計量管理体制で、国内市場に供給される耳式体温計の信頼性を長期的に確保することには限界があると結論された。4.3 国による輝度温度の標準供給にもとづく計量管理体制 上記4.1節と4.2節の検討結果を踏まえて、新たに実用黒体装置への輝度温度の標準供給(実用黒体装置の校正)サービスを産総研が行う計量管理体制について検討を行った。この体制は、前述の二つのケースの中間的な位置づけである。 4.2節のケースでは、実用黒体装置の構成要素のうち参照温度計については、国家標準へのトレーサビリティを確保した上で、黒体空洞部については工業規格(技術基準文書)で規定するものであったが、ここでは、さらに体温計が計測する輝度温度について、国家標準への直接のトレーサビリティを確保する。輝度温度に関しては、接触式温度計のように既存の標準供給体制が整備されておらず、耳式体温計のために新たなトレーサビリティ体系の設計・整備が必要となるため、国に一定の負担が発生する。しかしながら、輝度温度について産総研からの直接的な標準供給が可能となった場合、体温計製造事業者は自身の保有する実用黒体装置の構造や運用に関して必ずしも高度な技術や知見を持たなくとも、産総研(国)の高い技術を背景として、装置全体の不確かさレベルを評価したり、基準への適合性を評価したりすることが可能となる。また、事業者は、実用黒体装置を含めて独自の技術開発が可能で、かつ既存の保有設備を有効に活用できることなどから、現状の技術的・社会的状況において、高い精度を確保しつつ、我が国全体としてコストを最小にできるとの判断のもと、この方法を最終的に選択することとした。5 輝度温度の国家標準の開発 4.3節でのべた 計量管理体制の選択を決定した結果、産総研の喫緊の課題となったのが、耳式体温計を適確に校正するための基準となる輝度温度の国家標準器の開発であった。それと同時にそれらの技術開発の成果が耳式体温計の校正を含めて性能試験にも広く活用できるならば一層望ましい。 従来の水銀体温計や電子体温計の場合は、感温部(センサ部)を人体の測定部位に接触させて熱平衡状態を実現して温度測定を行う接触式温度計であるため、高精度のガラス温度計や白金抵抗温度計を基準の温度計として、恒温水槽の中に一緒に浸して校正や試験を実施することが可能である。また目盛りの不確かさの評価や校正設備の管理も比較的容易に行えた。図4 産総研の開発した耳式体温計校正用の標準黒体装置 (外観と断面構造図)(a):黒体空洞,(b):参照温度計,(c):ヒーター,(d):冷却コイル,(e):攪拌器,(f):断熱壁耳式体温計の校正作業(a)(e)(d)(c)(b)(f)

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