Vol.1 No.1 2008
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−49−研究論文:耳式赤外線体温計の表示温度の信頼性向上(石井)Synthesiology Vol.1 No.1(2008)していることを考慮して、新型体温計調査研究委員会において我が国の目標を0.2 ℃とすることが妥当であると結論された[2]。 この目標を達成するために、産総研では必要な要素技術とシナリオを図2のように考えた。産総研の研究目標として、①適合性評価用語6のための性能試験技術の開発、②精度管理のための温度計の目盛校正技術の開発および、③トレーサビリティの基礎となる国家標準器の開発、を設定した。産総研はこれらの目標を達成するため、共通かつ最重要な技術として、“高精度な黒体装置(標準黒体炉)の開発”に着手した。黒体装置の開発においては、Ⓐ安定かつ均一な温度場の実現に必要な精密恒温水槽装置に関する技術、Ⓑ黒体空洞の放射性能の定量的な評価に関する技術、および、Ⓒ耳式体温計を校正するために最適な黒体空洞を実現するための設計・製作技術を重要な要素技術として挙げた。4 我が国の計量管理体制の選択 図3は耳式体温計が、技術的な合理性の視点からどのような校正の連鎖を経て国家標準につながるべきか(すなわちトレーサビリティ体系)を示す。トレーサビリティの各段階において開発すべき主要な技術があり、また各段階の作業を誰が責任を持って行うかという計量管理の社会的な体制が問題となる。赤外放射測温を原理とする耳式体温計の校正・試験には、まず正しい温度目盛に基づいた黒体放射を実現する黒体装置が必要となる。黒体装置の主要な構成要素は、温度目盛の基準となる参照温度計と熱放射源となる黒体空洞及び恒温水槽装置である。従って、黒体装置の品質管理のためには、これら構成要素をどのような体制の下で精度管理することが適切かを考察した。 一般に事業者で製造される耳式体温計は社内に設置された実用黒体装置で校正され、温度目盛りが付けられる。その実用黒体装置はより上位にある標準の黒体装置で校正され、さらにその標準の黒体装置は高精度の接触式温度計を介して温度の国家標準につながる。体温域の実用黒体装置には、黒体空洞の温度を正確に決めるための参照温度計が必要であるが、高精度の白金抵抗温度計が利用可能である。この温度計に関しては、既に産総研の国家標準にもとづく標準供給体制(トレーサビリティ体系)が整備され、現に運用されている。このトレーサビリティ体系を利用して、参照温度計には0.01 ℃以下の十分小さな不確かさレベルで温度目盛を設定・管理することが可能である。 体温計の表示温度の不確かさの目標値を0.2 ℃とする場合、体温計の校正や試験の基準となる製造事業者の実用黒体装置の不確かさは、体温計に求められる不確かさの概ね1/3以下(今の場合0.07 ℃以下)であることが要求される。さらにその上位に位置づけられる標準黒体装置については、体温計製造事業者の保有する実用黒体装置よりもさらに小さな不確かさが要求される(例えば0.04 ℃以下)。 つぎに、図3に示す校正の連鎖の各段階でさまざまな作業が必要となるが、その作業をどの機関が責任を持って行うかという選択がある。図3の下部に示すように、可能性のあるつぎの3つの計量管理体制を比較検討して、現在の技術状況と社会状況に最も適合する体制を選択することとした。図2 耳式体温計の信頼性向上の研究目標とシナリオ耳式体温計の高性能化 ・高感度化 ・環境温度に対する安定化 ・素子特性のばらつきの補償 ・耐久性・耐衝撃性の向上恒温水槽の設計・製作 ・空洞の温度の安定化、均一化 ・空洞の温度の正確な測定黒体空洞の放射率の評価 ・モンテカルロシミュレーション ・非完全拡散反射効果の導入 ・空洞壁面材料の放射率測定 ・空洞壁面の温度評価黒体空洞の設計・製作 ・高放射率の空洞の設計 ・高視野角の空洞の設計耳式体温計の開発性能試験技術の開発校正技術の開発国家標準器の開発研究目標要素技術一般消費者、医療関係者体温計へのユーザ要求体温計の性能試験基準の整備体温計の標準供給体系の整備耳式体温計の信頼性向上体温計メーカ産総研

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