Vol.1 No.1 2008
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研究論文:個別適合メガネフレームの設計・販売支援技術(持丸ほか)Synthesiology Vol.1 No.1(2008)−44−5 評価と展望個々の要素技術の精度、信頼性については3章各節で述べたとおりである。ここでは、本研究の産業的・社会的有効性について論じる。3.2節で述べたサイズバリエーション設計技術は、4つのサイズバリエーションとサイズ適合を具現化した製品として共同研究先の企業から市販され、その後も、同企業が他の製品群にサイズバリエーションの理論を適用しており、産業的な有効性が認められているものと考えられる。3.3節で述べた多視点カメラ画像からの頭顔部3次元形状復元は、機能的には形状計測技術と同様であり、顔部にレーザ光などを投光することなく、高速に隠れなく頭顔部形状を取得できる点で、従来のパターン光投影式の人体形状計測技術よりも優れている。取得できる形状の精度は2 mmで、従来技術の精度0.5 mm[3]よりも劣るが、サイズ適合や感性適合の目的であれば十分な精度である。システムは多数台のデジタルカメラだけで構成でき、プロジェクターとカメラの精密な配置と時間制御を必要とする従来技術よりも省スペースで低価格なシステム構築が可能となる。顔に投光しない、省スペースで低価格である、高速である、データの欠落がなくすぐに相同モデルが取得でき、サイズ適合や感性適合に利用できるという特徴は、店頭に設置する計測システムとして、従来技術に勝る大きな優位性であり、産業的有効性が高い。3.4節で述べた感性モデルとそれを実装したシステムは、研究室でのデモンストレーション運用実績しかないが、システム体験者の反応は良好であり「メガネフレーム選びが楽しい」というコメントが得られている。サイズバリエーション技術により既存の生産設備での効率的なサイズ適合を実現したことと、多視点カメラによる形状復元技術により低価格な計測システムを可能としたことで、実店舗でのシステム運用に関する提供者側の投資の壁をほぼ克服できたと考えている。このシステムを実店舗で運用すれば、ユーザの顔形状情報と感性検索ログ、メガネ選択行動に関する一貫したデータを蓄積することができ、これらのデータの蓄積が最終的なMass Customizationの基盤となりうる。一方、ユーザ側においても、サイズに適合するだけでなく感性にも適合するものをさがすという技術を実現したことが、付加価値製品に対する投資意欲の向上に繋がるものと思われる。このようなユーザ側と提供側の投資意欲の連鎖が「あなただけ」に適合する製品を「だれにでも」提供できるような新しいユニバーサルデザインビジネス創成の第一歩になると期待している。このようなシステムが実店舗に導入されていくことは、サイズ適合に関するユーザの投資意欲の形成だけにとどまらず、社会基盤としての意義があると考えている。3.1節で述図10 感性モデルによるスタイル推奨システムる技術、さらに、顔形状とメガネ形状の情報からその組合せが与える印象得点を推定する技術を開発した。3章で述べた要素技術は、いずれも同一の頭顔部相同モデルとデータベースに基づいており、オフラインのデータレベルでは統合を実現している。また、3.5節で述べたとおり、技術の一部はデモンストレーションできるシステムとして完成している。これらの要素技術の連携において、もっとも重要な基盤は頭顔部相同モデルとそのデータベースにある。フレームのサイズバリエーション設計も、多視点カメラによる頭顔部形状計測も、また、感性モデルもすべて頭顔部相同モデルとデータベースに基づいており、個々の技術と頭顔部相同モデルのデータベースを併せ持たなければ、システムは稼働しない。事実、3.2節で述べた多視点カメラによる頭顔部形状計測技術は、別の計測技術によってあらかじめ測られたデータベースがなければ計測ができない。この点で技術としては不完全に見えるが、逆に、データベースをもっている事業者にとっては、データベースの優位性を活かすことができる技術と言える。すなわち、本研究で開発した要素技術は、いずれも頭顔部相同モデルデータベースを必要とするもので、それは、データベースを有する事業者の優位性を確保するという事業戦略に基づくものである。本研究のシナリオ自体も、この要素技術の選択の規範となった事業者の優位性をさらに高めるものとなっている。事業者が、本研究で開発した要素技術の統合システムを実際に店舗に設置して運用すれば、事業者は販売サービスを通じて、大量の顧客の頭顔部3次元相同モデルを蓄積していくことができる。これは、次のメガネフレーム設計におけるサイズグループ分類に活かせるだけでなく、より信頼性の高い多視点カメラ計測の実現にも繋がる。
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