Vol.1 No.1 2008
37/85

研究論文:異なる種類のリスク比較を可能にする評価戦略(岸本)Synthesiology Vol.1 No.1(2008)−34−時間あたりの換気回数の1日平均値の日間変動」はその95 %が含まれる範囲を0.5~10回、想定される温度範囲においては「1日あたりトルエン放散量の日間変動」はゼロと想定した。その結果、分散の加法性によって、室内発生源寄与濃度の年間平均値は幾何平均値15.72 µg/m3、幾何標準偏差4.28の対数正規分布に従うと予想された。 こうして導出された室内発生源寄与濃度分布と屋外大気中濃度分布を、室内と屋外が9対1であるという生活時間比率[4]で加重平均して、個人曝露濃度の分布を求めた(図4)。図は室内発生源のみの場合の曝露濃度分布、次に移動発生源や排出量が比較的少ない事業所からの排出量を加えた場合、最後に年間30トン以上排出している高排出事業所からの排出量を加えた場合を示している。3.4 疫学を用いた用量反応関係の導出 現行のリスク評価では、疫学調査や動物実験から、無毒性量の値を得ることが有害性評価のアウトプットである。しかし、物質ごとに、指標とされる毒性影響の種類やその重篤度、不確実性係数の大きさが異なるために、無毒性量や参照値の値だけでは有害性の大きさを相互に比較することが難しい。そこで、疫学調査の結果を用いて、健康影響と曝露濃度の関係、すなわち、用量反応関数を導出することを試みた。グラビア印刷工場の労働者を対象に実施された疫学調査[5]において調査された様々な自覚症状のうち、曝露量と発症確率に相関が見られた8症状を選び、これらに適合する関数形をあてはめ、用量反応関数を導出した。図5に示したのは8つの自覚症状の曝露濃度別の発症確率のデータである。曝露量が増えるにつれて、各症状の発症確率が上がるだけでなく、発症する症状の数も増えるという形になった。 3.5 ヒト健康リスクの定量化 3.3節で導出した個人曝露濃度分布を、3.4節で導出した用量反応関数に代入し、得られた症状の発症件数にそれらの重篤度を掛け合わせることによって、日本に住む人々のトルエン曝露による総健康リスクを「損失QALY」の大きさ(単位は年)として表すことができる。各症状および症状の組み合わせの重篤度は、死亡を0、健康を1とした QOL指標で表した。QOLには、医療分野で用いられている多属性効用尺度であるHUI(Health Utilities Index)3を用いた[6]。HUI3は8つの属性(視力、聴力、発話、移動、手指機能、感情、認知、痛み)について、それぞれ5~6段階で評価し合計972,000通りの健康状態のQOL値が得られる。計算の結果、2001年度における健康リスクは、表1のように、日本に住む人々全員に対して、197年のQALY損失であると計算された。他の化学物質や他の図4 日本人全体の個人曝露濃度(年間平均値)の分布「高排出事業所」とは年間30トン以上大気に排出している事業所を指す-2~-1.5~ -1~-0.5~0~0.5~1~1.5~2~2.5~3~3.5~4~曝露人口[万人]頻度[件]010203040506005001,0001,5002,0002,5003,0003,50000~2~4~8~16~32~65~130~260~520~1,040~2,080~4,160~10,000~曝露範囲[µg/m3]室内発生源寄与濃度の常用対数の分布(µg/m3)7.4E+00~4.1E-01~2.2E-02~1.2E-03~6.7E-05~3.7E-06~2.0E-07~0.0E+00~計算範囲情報 北緯39°15′0″ 北緯 32°30′0″ 東経 141°37′30″ 東経 129°22′30″メッシュ数 196×162凡例 [g/sec]室内発生源寄与分上に,移動発生源と低排出固定発生源寄与分を追加上に,高排出事業所寄与分を追加広域トルエン排出量の分布(本州・四国)1日の生活時間比率室内, 90 %屋外, 10 %

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です