Vol.1 No.1 2008
31/85

−28−研究論文:高機能光学素子の低コスト製造(西井)Synthesiology Vol.1 No.1(2008)周期構造を形成した光学ガラスの反射率を精密に測定した結果、入射角0°、波長462 nmにおいて0.56 %であった。この値は、ガラス表面に単層の反射防止膜を形成した場合よりも低く、実用レベルの性能である。図6(c)は試作品の写真である。成型条件の最適化と共に反射率が低下し、斜めからでも下の文字がはっきりと見える。本研究の当面の製品ターゲットは光ディスクドライブ用ピックアップレンズやデジタルカメラ用レンズである。現在は量産性を考慮して、シリカに代えて超硬材料を用いた曲面モールドの開発を進めているが、本研究によって、実用化を阻害していた低コスト化と高い量産性を克服できる可能性が高まった。5 考察材料、微細加工、素子化の3つの研究分野において、企業、産総研の研究者が集まり、そこに大学を交えた垂直的な連携による研究は予想以上に効果的である。日本の光学ガラスの技術開発力は世界トップであり、インプリント法によってサブ波長光学素子を作製できる材料が市販品の中にいくつか存在する。しかしながら、量産化という観点では、今後も多くのハードルを超えなければならない。ガラス企業は、集中研究室の中で産総研や材料メーカー、家電メーカーと一体となって、組成改良-成型-素子評価の3つの研究課題に効率的に取り組んでいる。一方、モールド材料については、そもそも、微細加工によってナノレベルの構造を形成する目的で開発されていないため、製造元と摺り合わせながら材料及び製造方法を最適化しなければならない。これらの材料技術に関しては、得られる知見を特許によって権利化し、それが近隣諸国で機能すれば、研究戦略上の大きな問題にはならないと考えている。また、成型温度域のガラス材料は粘弾性的な挙動を示すことが知られているが、成型シミュレーションに必要な高温物性等のデータがほとんど存在しないのが実状である。場合によっては評価装置そのものを開発する必要があるが、これらも材料と同様に権利化が可能であろう。一方、研究戦略上、非常に難しい問題を抱えているのが、モールド加工、離型膜、精密成型の3つの課題である。これらは、権利化できたとしても、それを保護することが極めて困難で、むしろブラックボックス化した方が得策だという考え方がある。昨今、このような製法に関わる情報を、加工、成膜、成型等の製造装置にレシピとして付属し、商品化する動きが見られる。本研究で導入した装置にもある程度のレシピが付属されており、汎用品であれば誰でも試作できる。これは、装置メーカーが、光学部材メーカーと摺り合わせながら性能を向上させる過程で知識を蓄積した結果であり、それがなければ装置の性能向上はあり得なかったであろう。今後、ガラスモールド法およびインプリント法の技術レベルをさらに向上させ、量産化に漕ぎ着けるためには、材料やシミュレーションを含む各種解析手法の進展だけでなく、加工、成膜、成型等の装置の高機能化が極めて重要である。その部分を光学素子メーカーが全てブラックボックスの中で個別に実施するのか、それとも、装置メーカーと情報を共有しながらノウハウをレシピとして搭載した商品にするのか、やがて選択を迫られる時期が来る。6 まとめここで紹介した研究事例は、情報家電の中でも比較的小型な光学部材の開発を目的としている。近い将来の応用先である撮像機器や光ディスクドライブなどの製品群は、近隣諸国の追い上げが非常に激しく、常にコストダウンと機能向上の2つの課題に直面しており、立ち止まることが許されない。「ガラスインプリント技術」には、機能向上と部品数削減の両立、あるいは、製造エネルギーとコストの大幅削減の可能性があり、次世代の光学部材製造技術の中核になると期待される。たとえば、本研究によって全波長対応の波長板ができれば、次世代CD・DVDドライブに必要な波長板の枚数は1/3になる。また、反射防止のために別途必要であった成膜プロセスが不要になる。本稿で述べたサブ波長光学素子に関わる技術分野の研究開発は、やがて、大型ディスプレイや照明器具、太陽電池等の産業分野にも波及し、光の利用効率の向上に伴って、最終的には、情報入出力機器全般の消費エネルギーの削減に貢献することが期待される。そのためには、さらに高度な微細化技術と材料技術の融合が求められることは必至である。これまで、企業同士の連携が中心で、大学や公的研究機関が参画することが希であった本技術分野は、産総研が提唱する「第1種基礎研究」はもちろんのこと、「第2種基礎研究」の領域でも、既に完結した技術であると認識されていた。ところが、技術レベルが向上し、これまでの学問では解決できない新たな問題が生じ、それが障害となって技術的な壁に遭遇することが多くなった。すなわち、「第1種基礎研究」と「第2種基礎研究」の両方に立ち返り、問題点や取り組むべき研究課題の抽出を行い、効率的かつ図6 (a)成型用モールドと(b) 成型された反射防止構造のSEM写真、および、(c)成型品の外観写真

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です