Vol.1 No.1 2008
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−27−研究論文:高機能光学素子の低コスト製造(西井)Synthesiology Vol.1 No.1(2008)し、様々な溝幅の耐熱モールドを試作して、ガラスの成型性について定量的に調べた。成型結果を図4に示す。溝幅330 nmのモールドの場合、得られるガラス成型体の構造高さは730 nmに達しており、極めて高精度な成型が可能なことがわかる。このようなモールド形状と、インプリントによって得られるガラス周期構造の形状との相関を定量的に明らかにしたのは、本研究が初めてである。ここで最も重要なポイントは離型条件であった。高温で離型すると、ガラス表面に形成された微細構造が熱変形する。また、低温で離型すると、モールドとガラスの熱膨張率の差に起因する機械的破壊が、モールドあるいはガラスのどちらか、あるいは双方同時に発生する。500 ℃以下の比較的低温での成型が可能な光学ガラスの場合、成型に伴うモールドの劣化が抑えられるという点では有利であるが、成型温度付近でガラスの粘度が急激に変化するため、離型のタイミングの見極めが極めて難しくなる。この問題に対して、モールド法に関して十分な経験を有する企業の研究員と、材料物性および微細加工に詳しい産総研の研究者との連携が功を奏し、短期間の内に世界トップの構造高さの離型に成功した。本研究では、図5に示すように6 mm×6 mmの大面積化も実証済みであり、位相差0.1λが達成できた[6]。ガラスモールド法で作製された周期構造で位相差を実現したのは本研究が初めてである。周期300 nmの構造体の成型にも成功しており、溝幅と構造高さの最適化によって、光ディスクドライブへの搭載条件である位相差0.25λを、波長400~800 nmの全域で達成することが今後の目標である。4.2 サブ波長反射防止構造の開発情報家電から照明に至るまで、幅広い製品に利用されているガラス部材には、光利用効率の向上、あるいは不要な反射光・迷光の抑制が求められている。現状の撮像光学素子やディスプレイパネルには、反射防止膜が施されているが、波長依存性、入射角依存性の無い反射防止という新たなニーズに対応することは、原理上難しい。一方、素子表面へサブ波長周期の錘形構造を形成できれば、高度な反射防止が可能なことは以前から知られていた。重要なのは、波長よりも小さな錘形を2次元的に配列することである。波長レベルの周期の錘形では光の回折が起こり、反射防止効果は得られない。波長よりも十分小さな錘形の場合、その先端の領域では、ガラスよりも空気の体積分率が大きいが、光が構造の内部に進むに連れて両者の体積分率が徐々に逆転するため、様々な角度で入射する光にとって、ガラスと空気の界面が存在しないと見なせる。また、2次元的に等方的な配列によって偏光依存性も無くなる。これまでに、サブ波長反射防止構造に関する多くの理論解析やものづくり研究の事例が報告されてきたが、そのほとんどが、アクリル系等の樹脂を用いており[7]、試作の域を出なかった。撮像機器等に必須の材料であるガラスへの反射防止構造としては、電子ビームリソグラフィーとエッチング技術を利用した研究がいくつか報告されている[8、9]。しかし、作製に長時間を要し、大量生産は不可能であった。そこで我々は、これまでに全く報告例が無かったガラスモールド法による反射防止構造の形成を目指すことにした。本稿では、耐熱モールド材料としてシリカを用いた事例を紹介する。基板表面に成膜した金属薄膜を電子ビームリソグラフィーでパターニングし、その後、ドライエッチングによって目的とする周期構造をシリカ基板に形成した。成型したガラス表面の反射率が低くなるようにモールド形状の設計を行い、図6(a)に示す周期300 nm、高さ約550 nmの2次元周期構造を形成した。真空成膜法により、モールド表面に離型膜を形成し、リン酸塩系光学ガラス(屈折率1.6)を約500 ℃で成型したところ、図6(b)に示す高さ約500 nmの反転形状を形成することに成功した[10]。ここでも、離型のタイミングの見極めと、離型に適したモールド形状の実現が成功の鍵を握っていた。積分球を用いて図4 1次元周期構造モールドとガラス成型品の電子顕微鏡写真成型温度 : 500 ℃プレス圧力 : 0.4 kN/cm²モールド表面ガラス成型体図5 位相差を発生する大面積1次元周期構造1 µm
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