Vol.1 No.1 2008
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研究論文:高機能光学素子の低コスト製造(西井)−25−Synthesiology Vol.1 No.1(2008)2.1 コストの壁1990年前後に研究が開始された「共鳴・サブ波長」と呼ばれる分野に注目したい。光の波長レベルあるいはそれ以下の周期構造を高精度に作製できれば、従来よりもさらに高機能な素子が作製できることが、計算機シミュレーションによって次々に明らかにされ、その後、シリコン等の半導体微細加工技術の発達と共に、試作を伴った基礎研究が盛んに行われた[1]。本稿で対象とする光の波長は、可視域から近赤外域(波長400 nm~2000 nm程度)である。構造の周期が入射する光の波長の2n倍(n=0,1,2,3・・・・)の場合は、回折波が発生する他、周期構造内での光波の共鳴による強い反射や光の閉じこめ作用が起こる。構造の周期が短くなると、回折や光波共鳴は発生せず、微細構造は周期を構成する材料と空気の平均屈折率の物質とみなすことができる。これが、「共鳴・サブ波長」の原理である。これまでにいくつかの共鳴・サブ波長光学素子が実用化されてはいるものの、その用途は限定的であり、情報家電製品などの汎用機器に搭載されるまでには至っていない。その理由は、月産数百万個以上の製造規模と低コスト化の障壁があまりにも高すぎたからである。2.2 機能の壁1980年に発明されたモールド法や射出成型法で、それまでの研削・研磨法では作製が困難であった非球面レンズや回折格子が安価に製造できるようになった。精密なモールド作製技術が確立され、非球面等の様々な形状の光学素子の量産が可能になった。例えば、デジタルカメラのズーム光学系には、ほぼ100 %の割合でガラスモールドレンズが使われており、日本および近隣諸国において、年間数億個のペースで生産されている。しかしながら、高精細化、小型・軽量化に加えて、ゴースト、球面収差、色収差の複合的な抑制等の新たなニーズが浮上してきた。一方、次世代光ディスクドライブには波長405 nmの紫色の光が使われるため、従来からのCD(波長785 nm)、DVD(波長655 nm)を加えた計3波長の光に同時に対応できる新たな光学素子が求められている。これらの機能素子のニーズに応えるためには、屈折と回折の併用、波長依存性のない構造性複屈折、波長・入射角依存性の小さな反射防止などの機能を、従来からのレンズ等の光学素子に組み込むための新たな技術が必要である。2.3 本研究の目標従来のインプリント技術は、微細な構造を形成できることで知られているが、低温成型が可能な樹脂のみに対応可能で、数百度の高温が要求されるガラスに適用した事例はなかった。また、ガラスモールド法は、レンズなどの表面が平坦な光学部材の製造に用いられており、光の波長より小さい構造の形成に使われた例はほとんど無い。そこで本研究では、学会で話題になっている樹脂材料のインプリント技術と、産業界で成熟したガラスモールド技術を組み合わせて、ガラスインプリント技術の開発に取り組み、これまで、微細加工技術を駆使して試作されてきた共鳴・サブ波長光学素子の新たな製造技術を開発することを目標とした。3 目標達成のためのシナリオ共鳴・サブ波長光学素子の作製に必要な加工サイズは数十 nm~数 µmの領域であり、可能な限り短時間で大面積の微細加工を行う必要がある。現在、産業界で使われているリソグラフィーとエッチング、レーザー加工、機械加工等の手法では満足できない領域である。しかしながら、その様な光学素子は、レンズ、プリズム、窓材などの表面に形成する場合が大半であるため、既存の微細加工技術を使って耐久性のある微細構造モールドを作製することができれば、素子の表面にインプリント法の原理を応用して微細構造を転写できるはずである。モールド法およびインプリント法の概念を図2に示す。日本のモールド法の技術レベルは世界でも突出して優れており、人材、設備、ノウハウの十分な蓄積がある。また、インプリント法は、米プリンストン大学のChouらが報告した技術であり[2、3]、ナノスケールに微細加工されたモールドを樹脂に押しつけ、紫外線あるいは熱を用いて構造を転写する方法である[4]。これまでに、インプリント法によって微細構造を形成して製品化した事例としては、液晶ディスプレイ用導光板など、樹脂材料が主体であった。一方、信頼性に優れたガラス材料では、10 µm以上の構造単位のマイクロレンズアレーや回折格子が知られている程度で、共鳴・サブ波長領域での製品化は未踏領域であった。そこで本研究では、ガラスインプリント技術によるサブ波長光学素子の産業化を目指して、図3に示すシナリオに基づいて、複数の要素技術および中間統合技術に関する研究課題を設定した。要素技術については、組成開発や物性評価を得意とする産総研が材料メーカーを先導する体制図2 ガラスモールド法およびインプリント法のイメージ図ガラスモールドには耐熱超硬材料が、インプリント用モールドにはガラスあるいはシリコンが使われる。ガラスモールド法インプリント法

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