Vol.1 No.1 2008
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研究論文:高齢者に配慮したアクセシブルデザイン技術(倉片ほか)−20−Synthesiology Vol.1 No.1(2008)収集する点である。ヒトの感覚機能のメカニズムを解明したり、そのモデルを検証したりする従来型の研究(第1種基礎研究)では、数名程度の被験者の測定データをもとに議論がなされることが多い(図7、矢印①)。そこでは、感覚の基本メカニズムはすべての人に共通であると考え、“平均的な”人間像が想定される。そして、個人差は一種の“誤差”として無視されるのが普通である。 一方、アクセシブルデザイン技術の標準化研究では、加齢変化を含め、感覚特性の個人差そのものが扱うべき研究対象である(矢印②)。そのため、数十名から、場合によっては100名を超える被験者のデータを収集する。個々の測定の方法や項目は、第1種基礎研究で用いられるものと大差ない。しかし、個人差の統計的性質を分析し、開発する技術の一般化を図ること(第2種基礎研究)によって、従来、実験室内に閉ざされていた人間特性研究を現場で役立つデザイン手法へと拡張する。 その目的のために、感覚特性データを収集する実験条件も、実験室的な限定された条件だけでなく、より実生活に近い条件を設定しなければならない。そこで、どのような条件を設定すべきか、果たしてそれが実際の生活環境を代表する設定になっているかの検討が必要となる。報知音の場合、製品が用いられる実際の生活場面で発生する騒音を収集し、その音響的な特徴を抽出する作業が必要であった(第2種基礎研究)。生活環境音の分析自体は研究の目的でないが、報知音の音量設定手法の妥当性を検証するために欠かせない過程であった。 二つめの特徴は、手法の単純化に重点が置かれる点である。アクセシブルデザイン技術は、あくまで製品設計の現場において適用可能な手法でなければならない。人間の感覚機能に関する複雑なモデルを立て、込み入ったデザイン手法を用いれば、設計の精度は向上する(矢印③)。しかし、あまりに複雑な設計手法では、コスト削減や迅速さが求められる実際のデザイン現場では使えない(また、デザイナーは必ずしも聴覚や視覚の専門家ではない)。複雑なモデルや手法は、概してその適用範囲が狭くなりがちである。アクセシブルデザイン普及のためには、製品分野の垣根を超えてさまざまな製品に適用できなければならない。適用範囲を制限せず、かつ設計精度を維持しつつ手法をどこまで単純化できるか、それがアクセシブルデザイン技術の標準化における最も挑戦的な課題である(矢印④)。 モデルの単純化は試行錯誤的にも行えるが、人間特性に関する基礎的知見(第1種基礎研究の成果)を援用することが欠かせない。報知音の場合、騒音中の報知音の聞き取りに関する聴覚モデルを単純化する必要があった(4.1節)。しかし、あらゆる変動音に対する聴感上の影響を検証することは不可能である。聴覚特性に関わるさまざまな基礎研究の知見を統合的に検討して、騒音と報知音の音量比(SN比)が聞き取りやすさを決定するとモデルを単純化し、それを実験的に検証した(第2種基礎研究)。7 アクセシブルデザイン技術標準化の今後の展開7.1 新たな報知音や音声ガイドへの対応 JIS S 0013及び0014の制定によって、消費生活製品の報知音の基本的仕様に関する規格化はほぼ終了したといえ目的・ 周囲の生活環境音があっても・ 聴力の低下した高齢者にとっても 聞き取りやすい報知音を製品につけたい①音圧レベルの測定③判断NoYes②音圧レベルの比較生活環境音と報知音の音圧レベルを比較④報知音の音圧レベルを調整報知音は聞き取りやすいと考えられるか?⑤聞き取りやすい 報知音が完成 !・ 生活環境音・ 試作した報知音図6 JIS S 0014に規定された報知音の音量設定方法の概略図(文献[17]より改変)

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