Vol.1 No.1 2008
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研究論文:高齢者に配慮したアクセシブルデザイン技術(倉片ほか)−19−Synthesiology Vol.1 No.1(2008)可能な基準値を見いだすことはできない。提案する音量設定手法は、十分な割合の高齢者の特性を満足すると保証されない限り、標準的方法として受け入れられない。そこで、個人差の統計的分布までを推定できるよう多数の測定値を精度良く求め、提案手法の一般化可能性を実験的に確認する必要があった。 本研究では、報知音をどの程度の音量に設定すれば何割の人が聞き取れるかを、種々の典型的な生活環境音(4.2節参照)を用いた聴取実験によって測定した。測定には、高齢者だけでなく若齢者も参加し、両者の聴覚特性の違いを比較検討した。そして、両被験者群で得られた測定値の統計的分布に基づいて、十分な割合(たとえば95 %)の人が聞き取れる報知音のレベル(下限値)、および「よく聞こえる」と判断されるレベル(上限値)をそれぞれ推定した。一例として、上限値の推定に用いた測定結果の一部(1,000 Hz報知音の場合)を図5に示す。 この測定では、高齢者群及び若齢者群が、報知音の聞き取りやすさを5段階で評定した。図中の各印は、各群の上位から95パーセンタイルにあたる評定値を示す。たとえば、図中矢印をつけた条件では、ある生活環境音を用いた測定条件において、各群の95 %の者が「4:よく聞こえる」または「5:非常によく聞こえる」と回答したことを意味する。言い換えれば、「3:どちらでもない」以下の回答は5 %未満であった。 この図によると、「4:よく聞こえる」との評定値(図中、横破線上の各点)は、報知音の音圧レベル75 dB(同、縦破線)より上の範囲に分布している。すなわち、どちらの被験者群でも、報知音のレベルが75 dBを下回ると、「報知音がよく聞こえる」と答える者の割合がすべての測定条件で95 %を切ってしまう。逆に、このレベルを超えれば報知音を聞き逃す者の割合はさらに減少するであろうが、一方で“うるさい”と感じる者が増加するため、日常的に用いる製品の報知音の大きさとしては望ましくない。そこで、75 dBを報知音の上限値と定めることとした。なお、下限値についても、聴取実験の結果に基づいて、さまざまな周波数の報知音に対して同様に推定を行った。 以上の分析結果全体を通して見ると、どの報知音の周波数および生活環境音を用いた測定条件でも、上限値及び下限値をある特定の値に定めることが可能であった。これによって、4.1節で立てた聴覚モデルの妥当性が確認されたことになる。測定に使用した妨害音は生活環境音の特徴をほぼ網羅したものであるため(4.2節)、本測定の結果は実際の生活場面にも精度良く当てはまるはずである。 なお、個人差を考慮して測定データを統計的に分析するために、実験は必然的に大がかりなものとなる。実際、図5は高齢者・若齢者あわせて80名が70種類の条件で音の聞き取りを行った計5,600個のデータに基づいている。このような大規模計測の結果が、報知音の音量の下限値および上限値を規定する際の根拠となっている[15、16]。5 JIS S 0014による報知音の音量設定手法 以上の検討結果に基づいて、JIS S 0014に示す報知音の音量設定手法がまとめ上げられた。その手順は図6のとおりである。 まず、試作した報知音と、その報知音が組み込まれる製品の使用場面で発生する生活環境音(たとえば、台所で使用する製品であれば流し台の水音)の音圧レベルを測定する(図6①)。次に、両者の音圧レベルを比較し(同図②)、報知音が聞き取りやすい音量であるかを判断する(同図③)。生活環境音と報知音のレベル差(SN比)が下限値と上限値の間にあれば、聞き取りやすい音量であると判断される。それ以外の場合は、報知音の音量を調整する(同図④)。下限値を下回れば生活環境音にかき消されて聞こえないと予想されるので、報知音の設定音量を上げる。逆に、上限値を上回るようであれば不必要に大きな音であるので、設定音量を下げる。以上の手続きを経ることによって、目的どおりの音量に設定された報知音を作成することができる(同図⑤)。6 従来型の人間特性研究と比較したアクセシブルデザイン技術開発研究の特徴 以上、JIS S 0014報知音の音量設定手法を例に、アクセシブルデザイン技術開発の過程を述べてきた。ここで、その特徴を明確にするために、本格研究の観点から従来型の人間特性研究と大きく異なる点を2つ指摘する(図7)。 まず一つめは、多数の被験者を対象として特性データを5:非常によく聞こえる4:よく聞こえる3:どちらでもない2:よく聞こえない1:まったく聞こえない被験者の評定値報知音の音圧レベル(dB)2030405060708090100図5 報知音の上限値を求めるための評定結果の一例(1,000 Hz報知音の場合)○印:高齢者群、×印:若齢者群。

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