Vol.1 No.1 2008
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研究論文:高齢者に配慮したアクセシブルデザイン技術(倉片ほか)−18−Synthesiology Vol.1 No.1(2008)設計された報知音とは言えない。妨害する騒音の大きさ、周波数成分の構成、時間変動といった音響特性によって、報知音に求められる最適な音量は異なってくる。しかし、製品のすべての使用状態を網羅し、発生しうるあらゆる騒音に応じた音量設定方法を定めるのは、実質的に不可能である。そのため、製品の使用環境で発生しうる生活環境音の音響特性をできるだけ単純化し、検証可能な程度にまでモデル化することが必要となってくる。 そこで、JIS S 0014の提案に先立って、さまざまな生活場面を想定し、その場で発生する典型的な騒音の音響特性を記述した生活環境音データベース TR S 0001[12]を作成した。測定の対象とした生活環境音の範囲と考慮した要因は図3のようにまとめられる。 まず、対象とする空間は室内に限定した。カメラのように室内外を問わず使用される製品もあるが、屋外環境までを含めると測定対象があまりに増えてしまう。多くの消費生活製品は室内で使用されることを考え、対象は室内で発生する音に限定した。しかし、対象を室内に限ってみても、一つの家屋には居間、台所などいくつもの部屋がある。さらに、和室か洋室かによる音響的な違いも無視できない。 部屋の容積もさまざまである。大きな部屋では室内の位置によって生活環境音のレベルも異なってくる。そこで、データベース作成に当たっては、室内の異なる位置で測定を繰り返し行い、その影響もあわせて記載した。また、台所の水音や居間のテレビの音など、使い方によって音量が大きく変わる音源もある。水音については水量を数段階に変えて測定し、テレビの音については高齢者の好む音量を、別途実験によって測定した[13]。 このような測定の結果、本データベースには、16種類の生活場面について350件以上の測定データが収録されることになった。TR S 0001に収録された生活環境音の分析結果の一例を図4に示す。生活環境音の場合、測定家屋の違いによる音響特性のばらつきは無視できない。そこで本データベースでは、同図のとおり、測定値の分布も併せて表示している[14]。このデータベースを活用することによって、生活場面ごとに騒音の特性はどの程度異なるか、家屋の違いによる特性のばらつきはどの程度か、といった検討が可能となる。 家屋が異なれば生活環境音の特性も大きく変動するはずであると想像するのが、おそらく一般的であろう。しかし実際には、図4に示されるとおり、1つの測定場面に特定して見れば、測定家屋によるばらつきは、たかだか10 dB程度に過ぎない(図4中、5パーセンタイル曲線と95パーセンタイル曲線との間隔を参照)。むしろ、ある測定場面の音と他の測定場面の音(たとえば、流し台の水音と居間のテレビの音声)の特性差の方が大きい。そこで、個々の生活場面の音は50パーセンタイル値の周波数特性(図4参照)で代表させ、典型的な生活場面を多数選択することで、家庭内で発生する生活環境音をほぼ網羅できると考えられた。そのようにして選択した種々の生活環境音を用いて、次節で述べる聴取実験のとおり、聞き取りやすい報知音のレベルを検証した。4.3 個人差への対応 4.1節及び4.2節の検討結果をもとに、妨害音中での聴取に必要な報知音の音圧レベルの上限値及び下限値を求めることで、報知音の適切な音量設定方法を確立することができる。ここで最後に残った問題は「個人差」であった。人間の感覚特性には個人差がある。さらに、その個人差は一般に加齢とともに増大していく。したがって、測定データの平均値だけを眺めていたのでは、高齢者の多くに対応1/3オクターブバンド中心周波数(Hz)音圧レベル(dB)8070605040302010125160200250315400500630800100012501500200025003150400050006300800095パーセンタイル75パーセンタイル50パーセンタイル25パーセンタイル5パーセンタイルLAeq図4 生活環境音データベースTR S 0001[12]の分析図の一例(流し台で皿を洗う音)複数件の家屋における測定値の分布を示す。

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