Vol.1 No.1 2008
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研究論文:高齢者に配慮したアクセシブルデザイン技術(倉片ほか)−17−Synthesiology Vol.1 No.1(2008)活場面で聞き取りやすい報知音の音量設定手法の開発に着手した。その成果として提案し、制定されたのがJIS S 0014である。4 報知音の音量設定手法開発のための課題 前節で挙げた、報知音の音量設定手法開発において考慮すべき3つの要因には、それぞれ技術的に解決すべき課題がいくつか存在していた。以下に、個々の課題に対して筆者らがとった解決方法を、測定結果の一例を示しながら概説する。4.1 加齢に伴う聴力低下への対応 開発する報知音の音量設定手法は、加齢に伴う聴力低下に適切に対応したものでなければならない。若齢者については、妨害音中の音の聞き取りに関する研究が古くから行われ、聞き取りの程度を予測するモデルも確立していた。すなわち、妨害音に対して目的の音のレベルがある一定以上大きいときに、その音が聴取可能となる。聴力の低下した高齢者であっても同様に、両者の音圧レベル差(SN比)に基づいて、目的の音が聞き取れるか否かが予測可能であると推測された。しかし、高齢者の場合にSN比は少なくともいくら必要か、その値は若齢者とどの程度異なるかを測定した有効なデータは、当時まったく存在しなかった。 そこで筆者らは、高齢者及び若齢者を対象に、妨害音中の音の聴取能力について測定を開始した。図2は、その結果の一例である。同じ妨害音の条件下であっても、高齢者は若齢者に比べて少なくとも5 dB、聴力低下の大きい者まで含めると、周波数によっては約10 dB強い音でなければ目的の音が聞こえないことが分かる。本測定結果から、実環境における報知音の聴取の場合にも、同程度の年齢効果を見込む必要があると考えられた。 次に、以上の基礎的知見をもとに、現実の生活環境音がある場合に必要な報知音の音圧レベルを推定しなければならない。問題は、図2の実験に用いた妨害音は比較的単純な雑音であったが、生活環境音は時間的にも周波数的にも変動を伴うことであった。変動の種類や大きさによって、報知音の聞き取りやすさは異なってくる。しかし、あらゆる変動に対する聴感上の影響を実験的に検証することは現実的でない。音の検出プロセスに何らかの仮定をおいて単純化した、聴覚モデルを構築する必要があった。 筆者らが携わった雑音中の音の検出に関するこれまでの研究[8、9]や聴覚特性に関わる基礎研究[10]を概観すると、音に含まれる細かな時間変動よりも平均的なエネルギー量の方が、多くの聴覚現象に対して大きく影響することが予想された。そこで、妨害音の種類や細かな音響的特徴にかかわらず、報知音と妨害音の平均的な音量の比(SN比)がある一定の値(これを「下限値」とする)を超えると報知音が聞き取れると仮定した。 また、その値を超えてさらに報知音の音量を上げると、聴力の低下した高齢者であっても十分大きく聞こえるレベルに達するはずである。このことを実験的に調べると、ある一定のレベルに音が達したときに、高齢者も若齢者も同じように大きいと感じることが確認された[11]。このときの音のレベルを「上限値」とし、下限値と上限値の間に収まるよう報知音の音圧レベルを設定することによって、変動を伴う妨害音中であっても適切な大きさに聞こえる報知音が設計できるとして、モデルの単純化を図った。 これらの仮説の妥当性並びに上限値及び下限値は、4.3節に記述する聴取実験によって検証され、測定されることになる。4.2 生活環境音による妨害への対応 ユーザが製品を使用する場所はさまざまであり、環境条件はそれぞれ大きく異なっている。たとえ静かな実験室内で聞こえても実際の使用状況で聞き取れなければ、適切に相対検出閾(dB)周波数(Hz)151050-5250500100020004000高齢者,重度難聴高齢者,軽度難聴若齢者…部屋の種類部屋の広さ対象空間屋外室内居間寝室台所浴室洋室和室洋室和室音源の音量一定可変図2 妨害音中に提示された音の聴取に必要な音圧レベル(検出閾)文献[7]より改変。若齢者を基準(縦軸、0 dB)として、高齢者の検出閾の相対的な増加量を示す。図3 生活環境音データベースTR S 0001[12]で対象とした生活環境音の範囲と考慮した要因

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