Vol.1 No.1 2008
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研究論文:不凍蛋白質の大量精製と新たな応用開拓(西宮ほか)Synthesiology Vol.1 No.1(2008)−14−質の発見に関わりその探索対象を市販の魚類にも広げた。現在は同蛋白質を使った応用実験(食品)のほか高分解能NMR装置の運転および多次元NMRスペクトル解析に従事している。特別技術補助職員(平成12年)を経て平成17年より二号契約職員津田 栄(つだ さかえ)ゲノムファクトリー研究部門 機能性蛋白質研究グループ平成7年の入所以来、0 ℃付近での生命現象を解き明かす”低温生物学”の研究に従事してきた。専門は核磁気共鳴(NMR)法およびX線回折法による蛋白質の構造機能解析。氷核蛋白質、不凍蛋白質、低温活性酵素などが低温下で発揮する特異的機能を解析し、それらの大量生産法を開発することによって、これまでに無い新しい産業技術を創生したいと考えている(北海道大学理学院生命理学専攻 客員教授)。査読者との議論議論1 定量的な優位性質問(水野 光一)アルミニウム板への不凍蛋白質の吹きつけ表面での氷結現象ですが、0 ℃付近で氷結される水の量は他の方法で氷結する場合よりエネルギー的にどの程度優位かを数値で示すことができますか。回答(津田 栄)不凍蛋白質固定化基板の特性解析の結果は第1種基礎研究の成果として別の雑誌に発表する予定です。−1 ℃の氷と−18 ℃の氷がもつエネルギーの差は、氷の体積を1 mLとした場合に約40 Jと見積もられますが、生成した氷の分子構造が通常の氷のものと違う可能性もあり慎重な考察が必要と思っています。今後の知財獲得のため効果の詳細記述は避けていますので御承知置きください。議論2 生体保護作用のメカニズム質問(水野 光一)肝細胞の長期保存ができるのも不凍蛋白質による“高温=つまり0 ℃付近”での保存でしょうか? 市販保存液では0 ℃付近保存で90 %死滅とありますので、保存温度ではないように見受けられますがいかがでしょうか? この場合、不凍蛋白質が生体的な保護作用を発揮しているかも知れないと想像しますが、メカニズムは解明されているのでしょうか。回答(津田 栄)心臓、肝臓、膵臓などの臓器および組織断片を0 ℃付近の非凍結温度下で1~24時間程度保存する技術は移植や再生医療の分野で実際に使われています。つまり0 ℃は保存温度です(英語ではhypothermic preservationと呼ばれる)。不凍蛋白質の細胞保護メカニズムですが、現状では“不凍蛋白質が本当に細胞保護機能を発揮するのかどうか”すら不確定な段階だと思います。細胞保存機能を調べるためには、細胞の種類、温度、前処理、後処理、保存液に含まれる他の成分などのパラメータを変えて実験を行い、その再現性を確認する必要があります。本研究により一定量の不凍蛋白質試料が確保されたことで、今後詳細な研究が進むと考えています。
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