Vol.1 No.1 2008
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研究論文:不凍蛋白質の大量精製と新たな応用開拓(西宮ほか)Synthesiology Vol.1 No.1(2008)−11−○は、筋肉の懸濁液から不凍蛋白質の高純度品又は粗精製品を精製するために必要な加熱、沈殿物除去、クロマトグラフィー、濃縮等の技術要素を示している。これらは図4に基づいて選択された後、コスト、時間、人力、収量等の条件を満たすように絞り込まれる。すなわち、安価で容易な○を試し、○の順序を精査し、また○の数を減らす実験によって詳細技術2の効率化が図られる。例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)はコストと収量の点で問題があるために○からは除外される。詳細技術2の最初の工程はキログラム〜トン量の不凍蛋白質の粗精製品を得る技術工程を兼ねている(注.原材料の量と設備は異なる)。原材料として選んだ不凍蛋白質(I〜III型)の生産魚類はいずれも北海道東部沿岸水域の主要海産物(ホタテと北海シマエビ)の捕獲時に網に掛かる極めて安価な混獲魚であり、現在でも我々の捕獲依頼分(約3トン/年)を除いた残りは産業廃棄物である。これらの魚類の筋肉すり身加工品が札幌市内の倉庫にトン単位で保管されており、その中の必要量を産総研北海道センター及び共同研究先企業に運び入れている。現在、北海道センターの実験棟内では複数の筋肉すり身約100 kgからI〜III型不凍蛋白質を精製するシステムが駆動している。III型不凍蛋白質の高純度試料の現在の精製効率は約3 g/5日間/1名である。共同研究先企業はその200倍以上の効率で純度40〜50 %の不凍蛋白質の粗精製品を精製できるが、もちろんその効率が上限というわけではない。高純度のIII型不凍蛋白質試料の写真(約10 g)を図6Aに示す。この高純度試料の現在の累計量は240 gであり、市価に換算すると約3億1千万円になる。しかし上述の通り我々の試料精製にかかるコストは極めて少ない。グラム量の不凍蛋白質が得られたことによってその含水物に対する凍結保護効果を解析するための様々な実験が可能になった。含水物の例として、加工食品、スープ類、氷菓子類、めん類、パン類、清涼飲料水、酒類、医療品、化粧品、インク類、高分子ゲル、高分子膜、野菜、果実、種子、食肉、魚介類等が挙げられる。現段階では全てを試せてはいないが、原理的には製造過程で不凍蛋白質の粉末を直接混入するか不凍蛋白質水溶液を吸わせることによって、これらに強力な凍結耐性が付与されると考えられる。食肉等含水物の構造が複雑な場合には不凍蛋白質を内部の隅々にまで浸透させることが難しいが、例えばミンチ状態にすると不凍蛋白質の効果が発揮される。なお、実用化段階では不凍蛋白質の粗精製品を用いる含水物に対しても、実験段階では高純度品を用いた効果の検証が必要である。実験結果の例を図6Bに示す。B1は、寒天ゲルを汎用の冷凍庫で凍結した後に室温に戻したときの写真である。ゲルの状態が保たれず水分が流れ出てしまうことが分かる(食肉の場合にはドリップと呼ばれる)。これは、凍結時に発生する氷核が成長して(図1A参照)ゲルの内部構造を破壊するためである。一方、B2に示すように極微量の不凍蛋白質添加によって凍結解凍後もゲル構造は保たれる。これは不凍蛋白質が氷核の表面に強く結合して氷結晶成長を止めるためにゲルの内部構造が破壊され難くなるためと考えられる(図1D)。このような凍結保護効果は最大氷結晶生成帯(−7〜0 ℃)においても充分に発揮さ図5 実用化量の不凍蛋白質を精製するための技術工程○は魚肉すり身液から不凍蛋白質を精製するために必要な加熱、沈殿物除去、クロマトグラフィー、濃縮等の技術要素を表わす。詳細技術2の最初の工程はキログラム〜トン量の不凍蛋白質の粗精製品を得る技術工程を兼ねている。遺伝子工学+培養不凍蛋白質種類(原材料)生 産 技 術詳 細 技 術 1詳 細 技 術 2化学合成原材料:血液天然資源からの精製原材料:筋肉植物魚類昆虫菌類実用化量不凍蛋白質粗精製品高純度品
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