Vol.1 No.1 2008
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研究論文:不凍蛋白質の大量精製と新たな応用開拓(西宮ほか)Synthesiology Vol.1 No.1(2008)−10−る技術の開発(B)である。これにより、異分野の研究者や企業の技術者の協力を得て精製不凍蛋白質を活用した応用技術の試行(C)が実現する。こうして不凍蛋白質技術の実用化が達成されると我々は考えた。4 技術開発に必要な要素と情報蛋白質は純度の低い製品でも充分に工業レベルでの利用目的を果たす。従って、培養法等を用いて生産されている工業用蛋白質の多くはコスト性に優れた粗精製品である[9]。不凍蛋白質も共雑物の影響を受けずに濃度に応じた氷結晶結合機能を発揮するため、その粗精製品を食品分野や冷蓄熱分野での技術に用いることができると考えられる。食品分野においては不凍蛋白質の粗精製品は天然抽出物に分類され、高純度品は食品添加物に分類される。前者は食経験の範囲内での安全性をきちんと確認した上でそのまま食品に応用することができるが、後者にはそれが許されていない。つまり、不凍蛋白質の高純度品は粗精製品の用途に使えない場合がある。一方、高純度品を必要とする実用化技術として細胞保存液や固定化技術がある。また、最終的には“粗精製品でも良い”という結論に至る場合でも、技術の基礎データを取得する段階では高純度品が必要である。従って、シナリオの柱である不凍蛋白質の大量精製技術は、より具体的には粗精製品と高純度品の2種類を精製するための技術である。用途の産業スケールを考えると、粗精製品を得る技術工程には特に大規模拡張性が要求される。不凍蛋白質の大量精製技術と実用化技術の開発は図4のような表を基に進められている。横の欄(A、B、C、D、・・・)は、探索により見出された約50種類の魚類由来不凍蛋白質(注.アイソフォーム混合物)を示し、縦の欄(性能、資源量、・・・)は技術開発をもたらす要素を示している。最初の実験は極微量の不凍蛋白質Aを精製してその組成と性能を調べることである(図中の太い四角)。この実験によって表の幾つかの欄に◎、◯、△、×の判定がなされる。性能、分子量、3次元構造などの欄を埋める行為は基礎研究そのものと言える。これに加えて、資源量やインフラ利用性(漁業組合、蒲鉾工場、保管倉庫、流通経路などの利用性を指す)など研究とは異質な要素に関する判定結果を含んでいることが図4の特徴である。こうして得られる一群の情報が技術開発の礎となる。ここで、性能は◎だが資源量が×のAに対しては技術開発がなされない。一方、BはAに比べて性能は劣るが、量(資源量)が性能をカバーすると考えられるために技術開発がなされる。そして、高い熱安定性の特徴を生かしたBの精製技術が開発されることになる。資源量が×ではないCとDについても精製技術の開発は可能だが、インフラ利用性に欠けるCには実用化の際のコスト高が懸念される。このように縦の欄は要素間で重みが異なるが、本研究においては資源量が性能に並ぶ重要な要素と考えられた。大量精製技術開発の基礎になる図4の表はすでに存在していたものではなく、我々自身が実験結果と調査に基づいて作成したものである。すなわち、不凍蛋白質の種類A、B、C、D、・・・は発見に伴って増加する。要素にも、安全性(毒性)、品質保持期間、精製後の残渣の再利用性などが本研究の進捗に伴って付加されていく。図4中の要素を分割することが必要になる場合や、◎や×の判定が変わる可能性もある。より正確で詳細な図4の改訂版を作ることが実用化研究の本質と言えるのかも知れない。5 研究結果我々が開発した実用化量の不凍蛋白質を精製するための技術工程を図5中の太線矢印で示す。「詳細技術2」の技術の試行ACNCB実用化冷熱輸送用の冷媒(氷スラリー)を安定化する技術加工食品等の含水物の凍結品質を改善する技術氷温付近において生細胞の生存率を向上させる技術凍結促進材料(氷核基板)を応用する技術図3 本研究のシナリオA.不凍蛋白質の分子機能解明(第1種基礎研究)、B.不凍蛋白質大量精製技術の研究(第2種基礎研究)、C.異分野の研究者や企業の技術者の協力を得て行う実用化技術の試行(製品化研究)。図4 精製技術と実用化技術の開発に必要な情報をまとめた表横の欄(A、B、C、D、・・・)は異なる種類の不凍蛋白質(アイソフォーム混合物)を示し、縦の欄(性能、資源量、・・・)は技術開発をもたらす要素を示す。研究結果や調査に基づいて○×が判定される。基礎研究の典型的な例を太い四角で示す。この表は研究や技術開発が進む度に改訂される。A性能資源量熱安定性インフラ利用性・・・・・・DCB酸 塩基耐性・分子量3次元構造

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