技術宝箱
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技術紹介ライフサイエンス53. 低温 (10℃) で酵母を使って効率よくタンパク質を作るる低温誘導性プロモーターを用いた低温誘導発現ベクターを構築した。本ベクターを用いて緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現を、出芽酵母を宿主として低温条件下において試みた結果、酵母細胞の可溶性画分の約50%程度までGFPが蓄積していることが明らかになり、その発現量は出芽酵母における既存の発現系を用いた場合よりも高発現であった。また、大腸菌発現系において不溶化し易いタンパク質の発現を、本発現系を用いて試みた結果、可溶性タンパク質として発現させることができた。以上の結果から、酵母低温誘導発現系は、既存の出芽酵母における発現系と比較して、高い発現量と発現成功率を有していることが示唆された。これらのタンパク質以外にも、40種以上のヒト由来タンパク質の発現を、本発現系を用いて試みており、高い確率で可溶性発現に成功している。2. 本技術の背景近年の様々な生物種におけるゲノム解析の進展やヒト由来等のcDNAコレクションの整備に伴い、それらにコードされる多様なタンパク質の産業や医薬品への応用が重要課題の一つとなっている。これらのポストゲノム研究における課題の一つとして、目的とするタンパク質を機能を保持した状態で高効率に生産するための発現系の開発が求められている。単細胞真核生物である出芽酵母は、大腸菌などの原核生物を宿主とした発現系と比較して、ヒトなどの高等生物由来のタンパク質を発現しやすく、培養コストも安価で大量生産のための培養のスケールアップも比較的容易であり、多様な遺伝子操作方法も確立されており、また安全な微生物であるなど、タンパク質生産における宿主として多くの利点を有している。しかしながら、従来の出芽酵母を宿主とした発現系では、発現量が比較的低い・内在性プロテアーゼによる分解・発現したタンパク質の不溶化などの問題点も知られており、タンパク質生産に広く利用されるに至っていない。出芽酵母を宿主とした発現系におけるこれらの問題点を解決する方法として、低温環境におけるタンパク質生産が有効であると考えられる。低温条件下では、発現したタンパク質の不溶化が抑制されることが既に大腸菌において示されており、コールドショック発現系として製品化もなされている。その他にも低温条件の利点として、熱に不安定なタンパク質の発現、発現タンパク質の低温による安定化、低温条件での内在性プロテアーゼの活性低下による分解の抑制、発現タンパク質の活性低下による細胞毒性の抑制などが考えられる。また、大腸菌と比較して、出芽酵母は低温条件下(10℃等)でもある程度生育が可能であり、低温条件下での培養による菌体収量が著しく低下しないため、培養液当たりのタンパク質の総生産量の著しい低下を伴わない。これらの点から、出芽酵母は低温発現系の宿主に適しており、出芽酵母における低温誘導発現系を開発することで、従来の発現系では発現が困難なタンパク質の生産に寄与できることが考えられた。321
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