技術宝箱
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技術紹介32. ナノメートル透明薄膜の膜厚と屈折率を同時に決めるては、表面プラズモン共鳴法も有力な手段となる。これらの方法の正確さは、これらの方法が光学的な位相のずれを測定しているということに起因する。しかし、有機薄膜の構造と物性は、それが堆積される基板の性状に大きく影響を受ける。透明基板上に堆積された膜の光学的性質も、不透明基板上や金属基板上のそれとは別に決定する必要がある。この点で、これら二つの方法は必ずしも有用性が高くない上、装置が高価である。そこで産総研では、透明基板上薄膜の膜厚と波長依存性のある屈折率とを同時に決定する技術を開発した。本技術は強度測定のみに基づいた方法であるためにこれら二方法ほどの感度はなく、極めて薄い膜には適用できないが、通常の分光光度計に測定治具を付加することでコストを抑えている。4. 本技術の背景有機薄膜の評価法の中でも、可視光を用いた透過率や反射率の測定は、特に基本的なものである。しかし、透過率や反射率は、数多くの物理量に複雑に依存している:測定波長での基板の屈折率、測定波長での薄膜の屈折率(膜に吸収がある場合は複素屈折率)とその異方性(膜面法線方向と面内方向での違い)、および、薄膜の膜厚。従って、単に透過率や反射率を、波長を変えて測定しスペクトルを得るだけでは、膜の本質的な物理量/屈折率の波長依存性や異方性を正確に評価できない。例えば、J会合体と呼ばれる色素会合体を含有したラングミュア・ブロジェット膜は、会合により幅の狭い光吸収帯を示すが、そのピーク付近では屈折率の実部も急激に変化し反射率にも変化が生じる。このため、透過率スペクトルで観察される谷の位置が吸収帯のピークと正確に一致している保証はない。また、この膜の場合、J会合体を形成する色素が膜内において一定方向に配向するので、光吸収に異方性が見られる。この異方性を評価するために、光軸に対して基板を傾けた状態で偏光状態(即ち光の振動電場の方向)を変えて透過率を測定することが一般的である。ところが、膜中での振動電場の方向は膜の屈折率の異方性に依存するため、実験で得られた透過率の異方性から色素配向の異方性を定量的に見積ることはむずかしい。産総研では薄膜の膜厚と波長依存性のある複素屈折率とを同時に決定する技術を開発した。可視光領域と赤外領域における透過率スペクトルの異方性を用いて分子の配向を評価するために、両面光学研磨されたフッ化カルシウム基板上の薄膜を対象とできることが必要であった。また、予め光学モデルを構築することは容易ではなく、光学モデルを必要としない技術とする必要があり、各波長における屈折率自身をパラメータとして扱うこととした。決定すべきパラメータの数は非常に多いが、最小二乗法を用いればできる。薄膜が異方的で吸収があるとすれば、各波長において屈折率に関するパラメータは6個( x y z 方向にそれぞれ実部と虚部)、例えば図2に例として挙げたように280 nmから860 nmまで1 nm刻みで測定したデータを基にする場合、屈折率に関するパラメータの総数は6×581=3486個に達する。膜厚というパラメータも加えれば、3487個である。パラメータの数がどんなに多くても、測定データの数がそれを上回れば、最小二乗法によるパラメータ決定ができる。この例では、偏光状態や入射角、それに透過か反射かを変えて7種類のスペクトルを測定できれば、データの数は4067個になる。測定データの数がパラメータの数を大きく上回る点がミソになる。ラングミュア・ブロジェット膜⦆:(Langmuir-Blodgett膜)親水性と疎水性のバランスが適当な両親媒性分子を,揮発性で水に不溶な溶媒で希釈して広い水面上に展開すると,単分子の厚さの膜が形成される。Langmuirは,この分野の実質的な創始者でノーベル賞を受賞している。水面を狭めることで単分子膜を圧縮して固体状態としたのち,ガラス等の固体の基板を,水面を通過して上下させることで,単分子膜をその基板の上に次々と移し取ることができ,できた膜を単分子累積膜,あるいは開発者の名を取ってLangmuir-Blodgett膜(略してLB膜)という。195ナノテクノロジー・材料・製造
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