技術宝箱
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技術紹介30. 大面積を簡単に書いて消せる光情報記録物質1. 特長今回開発したアントラセン誘導体の1例(A)の合成方法を図1に示す。この合成は市販の合成試薬から2段階の操作で、非常に簡便に行うことができることが特長である。この化合物の化学構造的な特徴は、アントラセンの2位の位置に置換基が導入されていること、および置換基としてメソゲン(液晶化合物の構造中にある剛直な部分)の1種であるシアノビフェニル基が用いられていることである。この化合物は室温で結晶であるが、一旦融点(Aの場合144℃)以上に加熱して溶融状態にしておいてから紫外光を照射すると、得られる光二量体は室温に冷却しても結晶化せず、安定な固体アモルファス相となる。なお、アントラセンの置換基として、単にアルキル鎖を導入した場合やシアノビフェニル基と同じくメソゲンであるフェニルシクロヘキサン基を導入した場合(図2)は、モノマーだけではなく光二量体を形成した後も、室温で結晶相を示すことから、置換基を含む分子構造は適切に選択する必要がある。この化合物をガラス基板に挟みこみ、一旦加熱溶融させ薄膜状サンプルとし、溶融状態を保ったままフォトマスクを通じて紫外光を照射すれば、紫外光を照射した部分はアモルファス相に変化し、未照射部分は結晶相を保持するために、アモルファス相と結晶相の2つの状態から構成されたパターンが得られる。結晶は複屈折性を持ち、微結晶であれば光を散乱する。一方、アモルファスは光に対して等方的(複屈折がない)で透明である。従って、光の波長に関係なく、透過光や反射光の強度差に基づいてパターンを読み取ることができる。パターンの書込みのために使った紫外光を用いることなくパターンを読み取ることができるために、光二量化によるパターンの破壊が避けられる。また、アントラセン光二量体の熱戻り反応は、約200℃という高温化でないと起こらないために、上記の方法により作製したパターンは、少なくとも100℃以下の温度範囲においては非常に安定である。このように本材料を用いた光情報記録法は長期保存に優れている。一方、200℃まで加熱すれば、パターンを消去できるので繰り返し使用が可能である。図1 アントラセン誘導体Aの合成方法.図2 光二量体を形成してもモノマー同様結晶相を示すアントラセン誘導体.概要一般的に、有機化合物はある一定温度においては、ある一つの状態(固体結晶、液体、気体など)をとるのが常識である。しかし、我々はある種のアントラセン化合物において、光と熱の共同作用により、室温において結晶相と固体アモルファス相の2つの状態を選択的かつ可逆的に発現させることに成功した。さらに、この現象を利用して、書換え可能で、かつ非破壊読み出しが可能な光情報記録方法を開発した。182中小企業のための技術宝箱
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