技術宝箱
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1. 今までの技術アントラセンは、ベンゼン環3つが直線状に連結した有機化合物で、青色の強い蛍光や、半導体の性質を示すことが古くから知られていた。アントラセンに紫外光をあてると、隣接した2分子が結合して、光二量体を形成し、この光二量体を高温で加熱すると、元のアントラセン1分子(単量体)に戻ることも知られていた。しかし、このような可逆的性質を産業に応用した例がなかった。2. 本技術アントラセンとその光二量体は、分子構造の対称性が良いので、どちらも室温で結晶している。しかし、アントラセンの2位の位置に適切な置換基(X)を導入した物質は、単量体では室温で安定な結晶相を示すのに、紫外光を照射して得られた光二量体は、室温で安定な固体アモルファス相を示す。この光二量体は、無置換のアントラセンと同様に約200℃で加熱すると単量体に戻り、室温で安定な結晶相が再生した(図1)。この現象を利用すると、可逆的な光情報記録(光パターニング)が簡便におこなえる。このアントラセン誘導体の加熱溶融状態にある薄膜に、フォトマスクを通して紫外光を照射すると、照射部分のみが固体アモルファス相に変化する。この結晶相とアモルファス相のパターンは、反射光や透過光の強度の違いなどで簡単に読み取れる。パターン(情報)を読み取る時には、アントラセンが吸収する紫外光を用いる必要はないので、読み取り光による副反応が起こらず、情報を破壊しない(非破壊読み出し)。また、一度書き込んだパターンは、200℃程度に加熱すると単量体になり消去でき、繰り返し新しいパターンを書き込むことができる(情報書換え可能)(図2)。このように、古くから知られる単一の有機化合物のみを用いて、相変化型の光情報記録方法を開発した。この材料は有機化合物なので、情報記録メディアの製造プロセスにはスピンキャストや溶融プレスが適用できる(図3)。既存の記録メディアで用いられる真空蒸着やスパッタリング等の大型設備の導入が不要で、製造コストの削減や省エネルギーにも貢献できると考えられる。301 紹介する技術とポイント 結晶相 ─ アモルファス相間の可逆的な相変化を示すアントラセン化合物の開発光と熱を利用した書換え可能な光情報記録法非破壊の情報読み出しが可能な光情報記録法2 技術説明大面積を簡単に書いて消せる光情報記録物質図1 2位の位置に置換基Xを有するアントラセン誘導体モノマーとその光二量体の可逆的な相変化.書込み消去フォトマスクフォトマスク図2 フォトマスクによるパターンの書込みと熱による消去.紫外光約200℃結晶相アモルファス相アントラセン誘導体単量体アントラセン誘導体光二量体図3 本材料に適用可能なメディア製造プロセス.スピンキャスト溶融プレス180中小企業のための技術宝箱

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