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13産総研TODAY 2013-02Research Hotline今村 裕志いまむら ひろしナノスピントロニクス研究センター理論チーム研究チーム長(つくばセンター)超高密度磁気記録、不揮発性磁気メモリー(MRAM)などナノ構造中の電子スピンを用いた情報処理デバイスの理論開発を行っています。解析的な理論手法やコンピュータシミュレーションを駆使してナノ構造中の電子スピンの振る舞いを明らかにし、新しい動作原理に基づくナノスピントロニクスデバイスを世の中に送り出すことを目指しています。ピン構造を閉じ込めることができます。その状態で固定層側から電子を注入すると、スピンの方向がそろった電流(スピン電流)がナノコンタクト内を流れますので、スピントルクによってナノコンタクト内のスピンが回転運動を始め、強磁性ナノコンタクトと接する自由層にスピン波が生じます。シミュレーションによって得られたスピン波の発振周波数の電流依存性は、特徴的な3つの領域(A、 B、 C)に分けられます(図2)。スピン波の空間的な広がりは、領域A、Cでは自由層全体に広がっているのに対し、領域Bではナノコンタクト近くに局在していました。このことから、領域A、Cの発振では自由層の性質で発振周波数が決まってしまうのに対し、領域Bの発振ではナノコンタクトに閉じ込められた磁壁の歳差運動によって発振周波数が決まっていることがわかりました。ナノコンタクト内の磁壁のスピン構造はナノコンタクトを流れるスピン電流の値によって変化するため、領域Bではスピン電流密度を変化させることで発振周波数を5 GHz~140 GHzの範囲で連続的に制御できます。今後の予定今後は、今回の理論提案に基づいた高周波発振素子の試作・評価、受信素子の研究開発を行い、強磁性ナノコンタクトを用いた無線通信システムの実現に向けて研究を進めていきます。強磁性ナノコンタクト素子によるミリ波発振ナノスケールの電流制御型発振素子を理論提案強磁性体を用いた発振素子の課題近年の微細加工技術の急激な進歩によって、強磁性体を用いたナノメートルサイズの素子の作製が可能になり、情報記録技術分野での応用が進む一方、磁性体中の電子スピンがマイクロ波に対応する周波数で振動する歳差運動を利用した発振・受信素子などの開発も行われています。しかし、巨大磁気抵抗素子や強磁性トンネル接合素子による発振は、発振周波数が十数GHz程度と低く、ミリ波の発振周波数が必要なセンサーやレーダーへの応用は難しいと考えられてきました。また、無線通信技術へ応用するには、制御可能な周波数範囲が狭いことが課題となっていました。強磁性ナノコンタクト素子の発振性能私たちは今回、強磁性ナノコンタクト*素子に直流電流を流すことにより5~140 GHzの発振が可能であることを理論的に示しました。シミュレーションに用いた強磁性ナノコンタクトは、側面が絶縁体で覆われた1辺4ナノメートルの立方体であり、上下は強磁性体の金属電極で挟まれています(図1)。上側の強磁性電極(固定層)のスピンは一方向に固定されており、一方、下側の強磁性電極(自由層)のスピンは自由に運動できます。外部磁場を加えて自由層と固定層のスピンの向きを反平行にそろえると、強磁性ナノコンタクト内に磁壁と呼ばれるねじれたス関連情報:● 共同研究者佐橋 政司(東北大)、荒井 礼子、塚原 宙(産総研)● 参考文献H. Arai et al.: Appl. Phys. Lett., 101, 092405 (2012).● 用語説明*ナノコンタクト:ナノメートルサイズの金属電極接点のこと。金属電極接点が強磁性体であるとき、特に強磁性ナノコンタクトと呼ぶ。● プレス発表2012年8月27日「強磁性ナノコンタクト素子によるミリ波発振」●この研究開発は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託事業、省エネルギー革新技術開発事業/挑戦研究「チップ間信号伝送用マイクロ波発振素子の開発」(2009~2011年度)および独立行政法人 日本学術振興会 の科学研究費助成事業、基盤研究(S)23226001の支援を受けて行っています。図2 発振周波数の電流密度依存性特徴的な3つの領域(A、B、C)に分類できる。発振しない領域はグレーで示した。図1 強磁性ナノコンタクトと強磁性電極の模式図強磁性ナノコンタクトの中には磁壁を閉じ込めることができる。写真 3.8×3.4 cm⦆外部磁場自由層電子固定層絶縁層強磁性ナノコンタクト 1 10 100 1000 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10発振周波数 [GHz]ABCスピン電流密度 [1013 A/m2]
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