産総研レポート
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太陽の当たる場所すべてに太陽電池を置くことができたら、どれだけいいでしょう。化合物薄膜チームの仁木栄研究チーム長、石塚尚吾研究員は、今まさにその一歩手前のところまでせまってきました。第2、第3の太陽電池を目指して 太陽電池は、無限に降り注ぐ太陽光から電気エネルギーをつくり出すことができるデバイスで、限りある化石燃料の代わりになる、新しいエネルギーとして注目されています。そのため、世界中で急速に研究開発が進められ、生産量も年率40~60%で伸び続けています。最も多く生産されているのは結晶シリコン系で、太陽電池の生産量の8割近くを占めています。 ここ数年で太陽電池産業が大きく成長していることもあり、シリコンの供給不足が心配されたこともありました。また、太陽電池に用いることができる別の素材や資源が枯渇する可能性も否めません。ですから、安定したエネルギー供給体制をつくるには、シリコン系に続く第2、第3の太陽電池の研究が必要となってきます。仁木研究チーム長は、材料研究の重要性を強く感じていました。 そこで仁木研究チーム長たちの研究チームは、旧通商産業省がオイルショック後に立ち上げた代替エネルギー研究開発プロジェクト「サンシャイン計画」のひとつとして、シリコン以外の太陽電池をつくる研究を始めました。そこで注目したのが、シリコン系にはない優れた特長を持ち、高効率な太陽電池がつくれると期待されていたCIGS(銅、インジウム、ガリウム、セレンの化合物)でした。しかし、当時は基本的な性質もわかっておらず、本当に高い変換効率の電池がつくれるかも未知数だったのです。実用化までには、長い道のりが待っていました。世界最高水準にまで前進 その後の研究で、CIGSは結晶シリコン系に比べて光吸収層が薄いにもかかわらず、十分に高い変換効率が得られるようになってきました。あわせて、セラミックシートや金属箔などの薄い素材の上にも、小面積ながらも高効率なCIGS太陽電池がつくれることも実証されました。そのため、軽量で曲げることもできる「フレキシブル太陽電池」の開発に期待が集まってきたのです。それができれば、耐荷重などの制限のために従来の結晶シリコン系太陽電池パネルを設置できなかった工場や体育館の屋根といった場所にも設置でき、より多くのエネルギーを再生可能な太陽光でまかなうことができるようになるのです。 現在製品化されているフレキシブルCIGS太陽電池モジュールでは、5-10cm角程の大きさの基板上にひとつの電池(セル)をつくり、それらの電池を金属グリッド電極で接続して大きな面積のモジュールをつくる「グリッド型」と呼ばれる構造が主流です。これは結晶シリコン系と同様のモジュール構造となります。一方、新しいCIGSなどの薄膜太陽電池では、セル間の接続にグリッド電極を用いなくても、配線をモジュール内につくり込んでしまう「集積型」構造を用いることができます。「集積型」モジュールは、限られたスペースでも高電圧を実現できる上に、金属電極の配線を行う必要がないので製造コストも大幅に下げられます。しかし、フレキシブルCIGS太陽電池では「集積型」構造の作製は難しく、光電変換効率は10%以下に留まっていました。 そこで石塚研究員は、高性能で実用的な「集積型」フレキシブル太陽電池をつくろうと研究を始めました。これは、電極層、光吸収層、透明導電膜層といった薄膜を基板上に形成する各工程間に、レーザーや金属針で溝をつくるパターニングという加工を施し、最後にパッケージ化して作製されます。仁木研究チーム長たちは、フレキシブルな(たわむ)基板に適した加工技術を開発するとともに、高変換効率のカギとなるナトリウム(Na)供給を制御する方法の開発に成功しました。CIGSの光吸収層の中に一定量のNaが不純物として存在することによって変換効率が向上することが知られていたのですが、大面積に均一なNa供給を行う手法の開発は、それまで重要な課題のひとつでした。すでに2008年に発表していたポリマー基板やセラミック基板上の小面積(0.5cm2)セルへのNa添加制御技術を、06軽くて曲げられる高性能な太陽電池、実用化に向けて大きく前進産総研とは巻頭特集組織概要トップメッセージ概要・特集巻頭特集:産総研の研究❶
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