産総研レポート
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近頃、多くのメディアで取り上げられていることからもわかるように、脳科学に対する関心が高まっています。「将来的にはこんな便利な技術が使えるようになりますよ」という話が多い中、産総技術総合研究所で開発された、ある製品が実用間近です。人の心を読む!? 手足を自由に動かすこと。家族と話をすること。普段の生活で私たちが何気なくできていることも、脳卒中などの病気や交通事故などがきっかけで、突然できなくなる可能性があります。言葉を発したり字を書いたりすることが困難な状態になると、自分の意思を表現する手段がないために孤立してしまったり、生命に危険が及んだりすることもあるのです。 長谷川研究グループ長を中心とした研究チームは、そうした人たちが再び日常的なコミュニケーションがとれるように研究開発を進め、2010年3月、ついに脳波による意思伝達装置「ニューロコミュニケーター」の開発に成功したことを発表しました。この装置では、まずパソコン画面にメッセージの候補を利用者に提示し、その時の脳波をヘッドキャップ一体型の超小型無線脳波計で測定します。そして、そのデータは即時に近くのノートパソコンに無線で送られ、リアルタイムで利用者がどのメッセージを選びたいかを解読します。最後にその結果はパソコン画面上のメッセージと人工音声によって他者に伝えることができます。 これまでも、脳の活動から「イエスかノーか」の答えを探る方式や1文字ずつ文字を入力する方式が考えられていました。しかし、ニューロコミュニケーターでは、これまでにない短い時間で512種類ものたくさんの意思表現ができるようになりました。しかも、そのメッセージはコンピュータ画面のCGキャラクター(アバター)がしゃべってくれるので、メッセージを伝える側も受け取る側も楽しくコミュニケーションをすることができます。基礎研究から実用製品の開発へ もともとは、生物が意思決定をするしくみを探るという、製品開発とは縁遠い基礎的な研究をしていた長谷川研究グループ長は、留学先の米国で2000年頃から盛んになった、脳と機械を直結するブレイン-マシンインターフェース(BMI)という研究分野に興味を持ち、帰国してからの産総研では、人の意思決定を読み取る認知型BMIという研究を始めました。初めは、脳活動によるロボットカメラの制御を行っていましたが、そのうち、ひとつの転機が訪れます。脳血管障害が原因で、身体を動かせなくなってしまった少女のことを伝え聞いたのです。「話すことができなくても、周りの人が話していることを聞いて理解できている。方法さえあれば想いを伝えられるのに、と悔しい思いをしている人たちがいることを知りました。」それがきっかけで、どんなメッセージを伝えたいと思っているかという脳内での「想い」をリアルタイムで読み取ることができたら、それは新しいコミュニケーションの手段に使えるのではないかと考えたのです。ニューロコミュニケーターの原案が生まれた瞬間でした。驚きの技術を日常的に使われる製品へ 病院や研究機関向けに販売されていた従来の脳波測定器は持ち運びが難しい大きさで、価格も数百万円と高価であったことから、とても一般の人に普及するようなものではありませんでした。それが一転、近年の半導体技術の進歩と必要な機能の絞り込みによって、パソコンを除く周辺パーツ(ヘッドギアや電極)とソフトウェアをセットにしても、2、3年後には10万円以下で発売できる見込みが立ってきたのです。「新しい技術ができると、初めは『えっ!そんなことができるの?』と驚かれますが、それを実際に使ってみると、『すごい!』という感動に変わります。そうやって、最終的には人々の日常に溶けこんでいく。ニューロコミュニケーターもそんな製品になってほしいと思います。」それが実現するためには、いったい何が必要なのでしょう。その答えとして、長谷川研究グループ長はひとつのコンセプトをもっています。08人の想いを伝える「機械」が 日常生活に溶け込む日産総研とは巻頭特集組織概要トップメッセージ概要・特集巻頭特集:産総研の研究❷

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