産総研LINK No9
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●ここにもあった産総研肝油や化粧品でおなじみの「スクアレン」「スクアラン」を発見日本の油脂化学の基礎を築き、油脂工業の発展に貢献した辻本満丸「スクアレン」と「スクアラン」、今でも栄養剤、化粧品材料から工業用潤滑油まで広く使われている。これらの成分を発見した研究者が、産総研(当時・農商務省工業試験所、後の東京工業試験所)の辻本満丸(1877~1940年)である。世界的にも注目される成果を出した辻本は、その後の日本の油脂化学工業の発展に大いに貢献し、日本の油脂化学・油脂化学工業の生みの親・育ての親と言われている。はないかと考え、「早くやらぬと他人がやるようで切迫している気がする」とこの研究に着手した。この肝油を分離・精製した結果、不けん化物*1が多くヨウ素価が高いという、それまでの魚油とは異なる特徴をもつ成分を発見した。それが新たな炭化水素化合物であり、分子構造がC30H50ということまで確認した辻本は、クロコザメなどが属する科名(Squalidae)にちなみ、「スクアレン」と名付けた。1916年のことである。その後、英国のA. C. Chapmanが同一物質を発見、別の名称を付けたが、辻本の発見・発表が早く、「スクアレン」が広く使われるようになった*2。 その後の研究でスクアレンは、人の皮脂にも含まれる抗酸化物質であることがわかり、皮膚の乾燥や細菌の侵入を防いだり、免疫を高めたりする作用があると推定されている。 もうひとつ、よく似た名前の物質「スクアラン(Squalane)」も、辻本が発見した成分だ。スクアレンはサメ肝油であるため、臭いも色も悪かった。辻本はこのスクアレンの精製・脱臭法の開発に力を注ぎ、1923年、水素を添加することで無味無臭の物質ができることを発見した。これが「スクアラン」である。この化学物質は加熱したり空気に触れたりしても劣化しにくいため、今では化粧外貨獲得にもつながる日本の新たな産業を創出 少し年配の人は、「肝油」と聞くと懐かしさを覚えるだろう。昭和30年代ころまで、子どもの、ビタミンAやビタミンD不足を補うために幼稚園や小学校などで支給された栄養補給ドロップである。その原料となったサメの肝臓などに含まれる「スクアレン(Squalene)」は、1906年、日本人の油脂研究者、辻本満丸によって発見された。 辻本は1901年、産総研の前身である農商務省工業試験所に入所し、日本産の植物油類の研究をスタートさせた。当時日本では、油脂に関する研究があまり行われていなかったが、早くから油脂工業の将来性に注目し、その発展にはさまざまな油脂の基礎的な研究が不可欠だと考えていたのだ。 辻本は植物油だけでなく、海産動物油、淡水産魚油、昆虫油など、さまざまな油脂の特性や成分を明らかにしていった。その中には、世界的に特に注目された重要な発見も数多く含まれていた。その一つが、クロコザメの肝油中に存在する高度不飽和炭化水素の「スクアレン」である。 辻本は、サメ肝油にはほかの魚肝油とは違う性質があるので世界に先駆けた発見「スクアレン」油脂化学工業の将来性に着目1882年の地質調査所設立に始まり、前身となる工業技術院時代から今の産総研に至るまで、130年を超える歴史の中で、社会に送り出してきた研究成果を紹介します。※文中で、工業技術院など前身の組織名を「産総研」と表記している場合があります。18 LINK 2016-11

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