十倉氏は、物質科学に物理学、化学、材料学、そしてテクノロジーという多分野にまたがった複眼的思考を持ちこむことで、常に新しい研究の最前線を切り開いてきた世界的リーダーである。大学院時代は有機物の光物性研究をテーマとしていたが、自身が得たデータを当時開発された動的CPAという理論を使いこなして解析するという離れ業を演じた。 また、電荷移動錯体における中性・イオン性転移の研究で、相転移近傍の巨大応答とそのダイナミックスという着想を育て、これがその後のマンガン酸化物における巨大磁気抵抗の発見へと繋がって行く。80年代後半高温超伝導が発見され銅酸化物が脚光を浴びるなか、当時世界中で手探りで物質開発をしていた時に、電子伝導面にキャリアーを供給する“ブロック層”に着目、これをコントロールすることで高温超伝導体を“設計”出来ることを示した。さらにこれを最初の“電子ドープ高温超伝導体”の発見により自ら実証した。 90年代に入ると産学官のアトムテクノロジー研究体のリーダーとして、大学では基礎、研究体では応用という態勢で研究を進め、遷移金属酸化物全般へと研究対象を広げてきた。 その中で発見されたのが、磁場をわずかに変えるだけで、100万倍以上も特性が変わる超巨大磁気抵抗マンガン酸化物である。これは高感度の磁気ヘッドなどへの応用をめざす研究の端緒となり、現在もベル研究所など世界中で熾烈な競争が行われている。 昨年4月から現在の強相関電子技術研究センター(CERC)を立ち上げ、さらに昨秋からは創造科学技術推進事業(ERATO)「スピン超構造プロジェクト」もスタートした。ここでは、相転移・臨界現象を用いた超巨大、超高速応答の研究に加えて、電子の量子位相を用いた新しい原理に基ずく磁気光学効果や、磁気電流効果の研究を開始している。これは基礎理論から応用までを視野に入れた壮大な夢のあるプロジェクトである。多忙な毎日を送る十倉氏であるが、部屋から部屋へコーヒーカップを片手にぶらりと“巡回”し他の研究者や学生との議論を欠かさない。その門下からはすでに多くの第一線の研究者が巣立っている。 |
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