1.目的と効果
これまでの質量分析装置に通常使用される粒子検出器はマイクロチャネルプレート(MCP)です。このような質量分析装置を用いて実際に観測されるのは粒子の質量ではなく、質量電荷比(m/z)で、イオン価数を弁別した質量分析をすることは原理上不可能でした。質量を得るためには、マススペクトルのピーク位置と推測したイオンの価数から解析するプロセスが必要でした。これを克服するために、ナノストリップライン構造をもつ超伝導粒子検出器を開発しました。この発明によって、マススペクトルのピークのイオン価数の推測が不要になります。
[適用分野]
● 質量分析装置(マトリクス支援レーザー脱離イオン化法など)
● 超伝導計測分野(粒子検出器など)
● ナノテクノロジー分野(巨大分子の観測など)
2.技術の概要
超伝導薄膜(膜厚10 nm)に線幅800 nmのストリップラインからなるミアンダパターンを加工し(図1)、バイアス電流を流しておきます。粒子が衝突すると、衝突個所が局所的に超伝導から常伝導に転移し、高速パルス信号(立ち上り時間1 ns)が発生します。これを粒子検出信号として利用します。バイアス電流を変化させると、イオン価数に対する感度を変化させることができます。バイアス電流を変化させながら質量分析を行うことで、MCP検出器では不可能な、特定のイオン価数に対するマススペクトルの測定が可能になりました。この方法を用いて糖タンパク質(リゾチーム、分子量14,305)のマススペクトルを観測しました(図2)。
3.発明者からのメッセージ
超伝導ナノストリップライン粒子検出器を用いて得られるマススペクトルはMCPと同程度の質量分解能をもちます。このマススペクトルから、イオンの質量だけでなくイオン価数の情報を直接的に得ることができます。その結果、マススペクトルの解析が簡単になります。特に、未知の混合試料の同定に大きな役割を果たすと考えられます。さらに、超伝導ナノストリップライン粒子検出器は検出感度が分子量に依存しないので、広い質量範囲での定量分析や巨大分子の観測が可能です。
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| 図1 超伝導ナノストリップライン検出器の光学顕微鏡写真 | 図2 糖タンパク質(リゾチーム、分子量14,305)のマススペクトル 超伝導臨界電流Icに対してバイアス電流Iが小さい時には、2価イオンを選択的に検出する。解析により特定の価数に対するマススペクトルの導出が可能。 |


