発表・掲載日:2018/11/12

西之島の噴火が大陸生成を再現していたことを証明


1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)海洋掘削科学研究開発センターの田村 芳彦上席研究員および佐藤 智紀技術スタッフは、国立研究開発法人産業技術総合研究所(理事長 中鉢 良治、以下「産総研」という。)活断層・火山研究部門の石塚 治主任研究員およびニュージーランドカンタベリー大学のAlexander R. L. Nichols教授と共同で、小笠原諸島の西之島(図1、2、3、4)の海底および陸上に噴出した溶岩の採取・分析を行った結果、西之島直下のマントルが融解して安山岩質マグマを噴出していることを明らかにしました。

安山岩質マグマは、太陽系で地球にのみ噴出する特異なマグマで、大陸地殻を形成する原料として地球表層の形成に深く関わっています。本研究グループでは、西之島で安山岩マグマが噴出することから、大陸の出現を再現しているのではないかと仮説を提唱していました(2016年9月27日既報)が、今回の研究結果はその仮説を実証したものです。

これまでにも、特異なボニナイトのような安山岩質マグマがマントルから直接生成されたことは指摘されていましたが、現在活動中の海底火山の安山岩からその証拠を発見した(図5、6、7、8)のは本研究が初めてです。この成果は地球における大陸の成因を明らかにするとともに、人間活動の基盤となる陸地を形成するプロセスの解明に向けて重要な役割を果たすことが期待されます。

なお本研究成果は、JSPS科研費JP17H02987およびJP17K05686ならびに韓国エネルギー技術評価院国際エネルギー共同研究開発プログラムの支援を受けて行われました。更に本成果は日本放送協会(以下「NHK」という。)との共同研究により得られた知見を活用しています。

本研究成果は、日本地質学会の国際誌「Island Arc」に11月9日付け(日本時間)で掲載されました。

タイトル:Nishinoshima volcano in the Ogasawara Arc: New continent from the ocean?
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/iar.12285
著者:田村芳彦1、石塚治1, 2、佐藤智紀1、Alexander R. L. Nichols3
1. JAMSTEC海洋掘削科学研究開発センター、2.産総研活断層・火山研究部門、3. カンタベリー大学



2.背景

大陸の平均組成は安山岩である一方、海洋底は玄武岩で形成されています。大陸を形成する安山岩は大陸に特徴的に噴出すると考えられていますが、もともと海洋で被われていた地球でどのように大陸が誕生したのかは、地球科学における大きなジレンマとなっていました。

そのような中、西之島は2013年11月に40年ぶりに噴火し、我々が住む大地がどのように誕生したかを知る手掛かりが得られるのではないか、そのプロセスが「大陸の誕生」を再現している可能性があると注目を集めました(図1、2)。

2016年、本研究グループでは、西之島を含む伊豆小笠原弧や北米のアリューシャン弧のこれまでの研究から、地殻の薄い海洋島弧に特徴的に安山岩マグマが噴出していることを明らかにし、「海において大陸が形成される」という新しい仮説を提唱しました。

しかし、当時の研究において西之島の最近噴火した溶岩および噴火後海底で急冷された岩石サンプルの分析は含まれておらず、本仮説を実証するためには、同サンプルの分析と検証が不可欠でした。

そこで、本研究グループは、噴出した溶岩の成分からマントルやマグマの成因を調べることを目的として、JAMSTECの海洋調査船「なつしま」、深海潜水調査船支援母船「よこすか」、民間調査船「第3開洋丸」と無人ヘリコプターを用いて西之島の調査を行い、溶岩を採取して分析を行いました。今回初めて、西之島および周辺海域から直接採取した岩石サンプルを各種の手法で総合的に分析しました。

3.成果

西之島は水深3,000mから屹立(きつりつ)する巨大な海底火山の山頂部であり(図4)、火山体の大部分は海面下にあります。陸上と海底から採取された溶岩の分析を行ったところ、西之島海底火山の本体が安山岩であることを改めて確認しました。一方、周辺海域の小海丘は玄武岩溶岩でできていることも判明し、マントルでできる初生マグマの組成が玄武岩質から安山岩質に時代とともに変化したことが示されました。

次に、西之島を形成した安山岩マグマの成因を明らかにするため、海底で急冷された溶岩を解析しました。水中で噴出した溶岩は、急冷により、もともとの鉱物の組み合わせと、初期に結晶として晶出したかんらん石(図5)を保持しているからです。その結果、安山岩とかんらん石の組成から、西之島直下のマントルにおけるマグマのでき方が明らかになりました。

2016年に海底下のマントルにおいて直接安山岩質マグマを生成しているという新しい仮説を提唱していましたが、今回、西之島およびその周辺海域の溶岩の観察と総合的な分析から、海底下のマントルにおいて直接安山岩マグマを生成している証拠を見いだしました。この仮説の実証により、地球においてどのように大陸ができていったのか、という地球科学における大きな謎の解明に近づいたと言えます(図6)。

特に、マントルで直接安山岩を生成するためには、西之島のような薄い地殻(図7)が必要であることが示されました。西之島の安山岩には、Eu(ユーロピウム)という元素が周期表上の隣り合う希土類元素よりも少ないという負の異常が見られます。この異常の原因を明らかにするために、マグマのもととなるマントルの岩石をいろいろと想定してユーロピウムの負の異常を説明できるかどうかを検討しました。その結果、地下において30㎞よりも浅い場所でのみ安定である、斜長石を含むかんらん岩がマグマの源であることがわかりました。つまり、安山岩質マグマをマントルで生成するためには、マントルが浅い場所にある、すなわち地殻が薄いことが必要なのです。本結果は前回の仮説を強く裏付けるものです。伊豆大島や三宅島のように地殻が30㎞を超えてしまうと、斜長石を含むかんらん岩は存在しないことから、マントルにおいて安山岩は生成されないことになります。

西之島のような地殻の薄い海洋島弧でのみ、大陸の材料である安山岩がマントルで生成されることは、これまでの常識を変えていく大陸生成の仕組みです(図8)。

4.今後の展望

今後は、この仮説が他の地殻の薄い海底火山でも成立しているのか、地殻の薄い海洋島弧で同じようにマントルにおいて安山岩質マグマが生成しているのかを検証していきます。日本の伊豆小笠原弧と同様な地殻構造を持つニュージーランドのトンガ・ケルマディック弧での調査や分析も進行中であり、新しい大陸生成説が進展していくことが期待されます。火山活動は災害をもたらすものという印象を持たれがちですが、温泉から陸地の形成まで人の社会や生活基盤に深く根付き、人間生活を豊かにする側面も持っています。その根源的な理解がよりよい自然との共生・共存へと繋がることから、今後も引き続き海底火山の調査・研究を続けることが重要と考えています。

図1
図1.西之島の大きさは東西約2,160m、南北約1,920mで、面積は2.96 平方kmとなった(2017/8/24海上保安庁)。東京ドームの62倍である。©海上保安庁

図2
図2.2017年7月に深海潜水調査船支援母船「よこすか」から撮影した西之島の噴火の様子。©JAMSTEC

図3
図3.西之島における深海曳航調査システム「ディープ・トウ」による調査地域。陸上の溶岩はNHKが無人ヘリで採取し、海底の溶岩はJAMSTECが「ディープ・トウ」で採取した。分析と解析はJAMSTECで行った。©2018 Yoshihiko Tamura
(ディープ・トウ:http://www.jamstec.go.jp/j/about/equipment/ships/deeptow.html

図4
図4.西之島は、東京から1,000 km南にあり、火山体の大部分は海面下にある。水深3,000mから成長した、底径50㎞の巨大な海底火山が西之島海底火山であり、海面上に現れた直径2kmの山頂部が西之島である。西之島の北には土曜海山、金曜海山などの七曜海山が続き、南には海形海山、海徳海山という海底火山が屹立(きつりつ)している。©2018 Yoshihiko Tamura

図5
図5.
(a) 西之島の安山岩の薄片写真。斑晶が少なく、かんらん石が安定に存在している。
(b) 西之島の周辺海域の海丘に噴出する玄武岩溶岩。大量のかんらん石と単斜輝石を含む。西之島よりも古い時代に噴出したもので、より深いマントルに由来する。©2018 Yoshihiko Tamura

図6
図6.西之島の安山岩とかんらん石を用いた結晶分化作用の図。西之島安山岩のルーツをたどる。横軸は溶岩のシリカ成分を表しており、シリカ量が53%以下のものが玄武岩、53–63%のものが安山岩と定義される。縦軸は溶岩に含まれる酸化鉄と酸化マグネシウムの重量比(FeO*/MgO)で、この比が1以下になるとマントルと平衡であると考えられている。かんらん石を分別するトレンドから、西之島の安山岩がマントルで生成した初生安山岩マグマをルーツとすることが示された。また、大陸地殻の平均は西之島と初生安山岩の中間にある。西之島の直下のマントルは斜長石かんらん岩であるが、斜長石かんらん岩が部分融解して、直接、初生安山岩マグマ(マントルと平衡である安山岩マグマ)が生成されていることになる。©2018 Yoshihiko Tamura

図7
図7.西之島の地殻の厚さは21kmであり、マントルに最も近い島の一つである。このような薄い地殻の下には斜長石が安定である斜長石かんらん岩がマントルを構成している。斜長石かんらん岩が融解して、西之島の安山岩が生成した。©JAMSTEC

図8
図8.西之島におけるマグマのでき方の変化。古い時代(78万年より以前)はマントルの深い部分が溶けて玄武岩質マグマを生成し(1)、マグマだまりを経由して(2)噴出した。これらのマグマは周辺海域の小海丘を形成した(3)。時代の経過とともに、マグマ活動により、マントルの温度が上昇し、地殻直下の浅い部分(斜長石かんらん岩)が融解する。この場合、たとえマントルの深い部分で玄武岩マグマができても、浅い部分のマントルと反応して安山岩マグマになる。(4)。それが現在の西之島のマグマだまり(5)を経由して、安山岩質マグマを噴出する(6)。©2018 Yoshihiko Tamura


用語の説明

◆ボニナイト
沈み込み帯の形成初期において噴出するマグネシウム含有量の高い安山岩溶岩。小笠原の父島では、約5千万年前に噴出した。マントルで直接生成される安山岩の一種であるが、沈み込み帯形成時など、特異な条件下でのみ生成すると考えられている。[参照元へ戻る]
◆初生マグマ
上部マントルが部分融解して最初に生じるマグマ。できたばかりの分化していないマグマであるため本源マグマともいう。初生マグマは地表に溶岩として噴出するまでに温度の低下により結晶を晶出し、晶出した鉱物と残りのマグマが分離することによって組成を変化させていく(結晶分化)。このときに最初に晶出する鉱物がかんらん石である。よって、かんらん石を有しており、さらに結晶の少ない岩石から初生マグマを推定することができる。[参照元へ戻る]



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