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発表・掲載日:2013/02/14

東日本大震災の津波被災地における海水の地下への浸透状況

-ヘリコプターを用いた空中電磁探査で調査-

ポイント

  • 電気を通しやすい地層(低比抵抗層)が海岸線から内陸側数kmにわたって分布
  • 低比抵抗層の分布域は津波浸水域と一致
  • 地下の高比抵抗層に農業などにも利用可能な新たな地下水資源の可能性

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)地質情報研究部門【研究部門長 牧野 雅彦】地球物理研究グループ 大熊 茂雄 主任研究員と地圏資源環境研究部門【研究部門長 駒井 武】物理探査研究グループ 上田 匠 研究員は、2012年6月に宮城県亘理郡亘理町、亘理郡山元町、福島県相馬郡新地町、相馬市において、東日本大震災に伴う津波被災地の海水の地下への浸透状況を調査するため、ヘリコプターを用いた空中電磁探査を実施した。

 この調査により、海岸線から内陸側数kmにわたって地下の浅部(深さ0~5 m程度)に比抵抗が20 Ωm 程度以下の電気を通しやすい低見掛比抵抗層が広く分布し、その分布域の境界は津波浸水域の末端部とほぼ一致することが判明した。また、その分布域の地下深部(深さ10 m以深)では海岸からの海水浸入による低比抵抗層が多く見られるが、相対的に高い比抵抗の層も認められた。これらの高比抵抗層付近には淡水性の地下水が存在する可能性があり、新たな地下水用井戸掘削の候補地点選定への貢献が期待される。

空中電磁探査ヘリコプターの写真と仙台平野南部地域(亘理町付近)の見掛比抵抗分布(140 kHz)の図
(左)空中電磁探査ヘリコプター
(右)仙台平野南部地域(亘理町付近)の見掛比抵抗分布(140 kHz)

研究の社会的背景

 調査した津波被災地では、鮮新世の基盤岩類の上に下部砂層、粘土層、上部砂層が順に堆積し(図2)、上部砂層中には不圧地下水が、下部砂層中には被圧地下水が存在する。この地域は海岸線に近いため通常でも海水の影響を受け、また沿岸部の地下深部では海水の浸入や海水準変動による化石塩水の存在が知られている。これらに加えて、現在は津波による浸水で地下浅部の不圧地下水が塩水化し問題となっている。このため安心して利用できる淡水性地下水を確保できるように、地下水の汚染状況の把握や継続的なモニタリングが求められている。宮城県亘理郡亘理町や亘理郡山元町では、稲作のほかイチゴのハウス栽培が盛んであり、イチゴへの散水やビニールハウスの暖房のために淡水性の地下水の確保が喫緊の課題となっている。

図1 今回調査した地域の地下水環境概念図の図

図1 今回調査した地域の地下水環境概念図

(東北農政局(1980):宮城県及び岩手県水文地質図集に加筆修正)

研究の経緯

 産総研では、平成23年度補正予算「巨大地震・津波災害に伴う複合地質リスク評価」により、東日本大震災に伴う津波、内陸性地震、液状化、土壌・地下水汚染に関する複合リスクを陸域から浅海域にかけて総合的に調査し、被災地の復興計画に役立たせるための研究を実施している。今回、その一環として、津波被災地(図2、宮城県亘理郡亘理町、亘理郡山元町、福島県相馬郡新地町、相馬市)における海水の地下への浸透状況と、その下層にある淡水性地下水の分布をヘリコプターによる空中電磁探査によって調査した。

図2 今回調査した地域の図

図2 今回調査した地域

A:仙台平野南部地域、B:松川浦地域

研究の内容

 今回の調査では、100 m間隔で設定した東西方向の測線上で、ヘリコプターに吊り下げた電磁探査装置の送信器によって5つの周波数(340 Hz、 1.5、 6.9、 31、 140 kHz)の磁場を発生させ、地盤の電気の通しにくさの指標である比抵抗に対応して発生する二次的な磁場を、電磁探査装置の受信器で受信した。そして受信データから周波数ごとの見掛比抵抗データを得た。

 最も高い周波数(140 kHz)の見掛比抵抗分布は地下の浅部(深さ0~5 m程度)での分布に対応し、仙台平野南部(図3 (a))の海岸線付近では4.0 Ωm以下の非常に低い比抵抗値を示した。この低い比抵抗値は海岸からの海水の浸入のためと考えられる。一方、海岸線から内陸側に向かって数km以下の地域では、20 Ωm 以下の低比抵抗層が広く分布し、その分布域の境界は津波浸水域の末端部に良く一致している。これは、津波による海水(比抵抗値 0.25 Ωm)の浸水で土壌や浅部地層(通常は数10 Ωm以上)の比抵抗値が低下したためと考えられる。松川浦地域(図3 (b))の調査結果も同様であるが、湖岸線より内陸側が4.0 Ωm以下の非常に低い比抵抗を示した。低比抵抗域の範囲は仙台平野南部より広く、この地域では津波による海水が仙台平野南部に比べて、地表に長く滞留していたためと思われる。

図3 見掛比抵抗分布図(140 kHz)の図

図3 見掛比抵抗分布図(140 kHz)

(a) 仙台平野南部
赤の太線が津波浸水域の境界(国土地理院、2011:http://www.gsi.go.jp/kikaku/kikaku60003.html)を示す。青の細線は、水系(国土地理院発行数値地図25000(空間データ基盤))を示す。A-A’は図4の断面位置を示す。
(b) 福島県松川浦地域

 また、仙台平野南部地域の10~20 mより深い地下では、 2.0~11.0 Ωmの低比抵抗層が海岸線付近から内陸に向かって伸びているが、農業用排水路などでは、さらに深い地下にまで低比抵抗層が認められる。これは、海岸から浸入した海水が農業用排水路を通じて地下へ浸透したことによると考えられる(図4)。

 これらの低比抵抗層に囲まれて相対的に高い比抵抗の層も認められた。このような比抵抗分布の特徴は淡水レンズの形態と類似性があることから、これらの高比抵抗層の分布域には淡水性地下水が存在している可能性があり、新たな地下水の供給源の候補と考えられる。

図4 仙台平野南部地域の見掛比抵抗東西断面図の例(縦横比 20:1)の図
図4 仙台平野南部地域の見掛比抵抗東西断面図の例(縦横比 20:1)
断面図の白い部分は、送信信号が届かず調査できていない部分。

今後の予定

 空中電磁探査による見掛比抵抗分布をさらに解析し、また、より深部の比抵抗層の構造を明らかにするため、今回の調査地域では、地上でも電磁探査や高密度電気探査などを実施している。今後、これらのデータを比較検討すると共に、ボーリングによって浅部の水源として利用できる淡水性地下水が実際に存在するかなどを確認する。


用語の説明

◆空中電磁探査
空中電磁探査とは、送信器や受信器などの計測装置をバードと呼ばれる容器に収納しヘリコプターからえい航して、一次磁場により誘導された地下の渦電流から発生する二次磁場を測定することにより、地下の比抵抗構造を調査する物理探査手法である。
探査深度は、一次磁場の周波数と地下の比抵抗の組み合わせできまり、周波数が低いほど、また比抵抗が高いほど深部まで調査可能となるが、通常は、数10 mから100 m程度である。測定は、1秒間に10回行われるので、今回の調査のように時速50 kmで飛行すると、調査測線上では1.4 mごとに1回データを測定することになる。したがって、水平空間分解能は数m程度と考えられる。[参照元へ戻る]
空中電磁探査概念の図
空中電磁探査概念図
◆比抵抗
電流の流れにくさを示す物質の性質で、導電率の逆数である。[参照元へ戻る]
◆見掛比抵抗
地下が等方均質な大地と仮定して求めた比抵抗のこと。[参照元へ戻る]
◆鮮新世
地質時代における新生代新第三紀の後半の期間(今から約500万年前から約260万年前)。[参照元へ戻る]
◆不圧地下水
地層中の空隙を通して大気とつながっている帯水層中の地下水。重力の作用により高所から低所に移動する。[参照元へ戻る]
◆被圧地下水
帯水層の上下を不透水層に挟まれて上位から加圧されている地下水。[参照元へ戻る]
◆海水準変動
海面の陸地に対する昇降運動。海面変動ともいう。[参照元へ戻る]
◆化石塩水
地層の堆積時に地層中に閉じこめられた海水で、水文循環から孤立した海水。[参照元へ戻る]
◆淡水レンズ
地下で海水と淡水の比重差から、地下水(淡水)が海水(塩水)の上にレンズ状の形で浮いているものをいう。[参照元へ戻る]

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