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発表・掲載日:2010/12/03

-196 ℃から1000 ℃までゴムのような粘弾性を持つカーボンナノチューブ

-軽さと丈夫さを兼ね備えた、広い温度範囲で利用できる粘弾性材料-

ポイント

  • -140~600 ℃まで安定してほぼ一定の柔らかさと硬さ(シリコンゴム程度)を保つ
  • 高純度カーボンナノチューブからなる長尺でランダムなネットワーク状の構造体により実現
  • 過酷な環境下での軽量な衝撃吸収材料として幅広い応用の可能性

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)ナノチューブ応用研究センター【研究センター長 飯島 澄男】畠 賢治 上席研究員 兼 スーパーグロースCNT研究チーム長、同チーム 二葉 ドン 主任研究員、技術研究組合 単層CNT融合新材料研究開発機構(以下「TASC」という)徐 鳴 特別研究員らは、ランダムなネットワーク状の構造を持つ高純度のカーボンナノチューブ(CNT)の構造体をスーパーグロース法を応用して作成した。このCNT構造体は-196 ℃から1000 ℃までゴムのような粘弾性を示す。

 粘弾性体は衝撃や振動の吸収材として利用されているが、多くは高分子材料であり、その粘弾性体としての性質は超低温や高温では失われ、振動数依存性もある。また、繰り返し応力による劣化や破断など耐久性にも問題がある。

 今回新たに開発したCNT粘弾性体は、密度が0.036 g/cm3と軽量であり、-196 ℃から1000 ℃の温度範囲で粘弾性を示す。また、-140~600 ℃で、0.1~100ヘルツの振動数範囲では、周波数に依存しない安定した粘弾性を示した。さらに100ヘルツで1 %のねじり歪みを100万回加えた後も、劣化や破断がなかった。この材料は将来、超低温や高温の環境下で、衝撃や振動の吸収材として利用できる可能性がある。

 この研究の詳細は、米国の学術誌「Science」に2010年12月4日(日本時間)に掲載される予定である。

カーボンナノチューブ粘弾性体を使った除振試験装置と液体窒素で冷却した場合とバーナーで加熱した場合の写真
カーボンナノチューブ粘弾性体を使った除振試験装置(左)。液体窒素で冷却した場合(中)も、バーナーで加熱した場合(右)も除振機能を保つ。

開発の社会的背景

 粘弾性体は、主に衝撃吸収や振動低減の目的で、靴底・寝具などの日常生活用品から車両の防振・産業用振動絶縁装置・建物の免震装置など、幅広く利用されている。しかし、その多くはゴムなどの高分子材料であり、最も温度変化に対して安定なシリコンゴムであっても低温(約-55 ℃)では硬化し、高温(約300 ℃)では分解するため、粘弾性体としての性質を失ってしまう。また繰り返し応力によってエネルギーを吸収する性能は劣化し、ついには破断してしまう。そのため、過酷な条件下で衝撃吸収、振動低減を行えるような粘弾性体の開発が求められている。

研究の経緯

 スーパーグロース法は数100マイクロメートル以上の長さの超長尺で、高純度のCNT構造体を高効率で合成することができる。触媒粒子を含まないため、高温でも酸化せず、また長尺であるため十分な機械的強度を持つ。産総研は触媒の調製法を工夫することで、より厳密なマイクロ構造を制御する研究を行っている。

 CNTの強度・弾性・温度安定性についてはこれまでも知られており、構造材料として注目されている。また配向したCNT・フィルム状CNT・糸状CNTなどさまざまなCNT構造体について疲労強度や圧縮弾性が調べられてきたが、粘弾性については詳細な研究はなかった。産総研とTASCは、反応性イオンエッチング法で触媒を調製することにより、CNTが縦横に絡み合ったネットワーク状の構造体の合成に成功し、その粘弾性について研究することとした。

 なお、この研究は、産総研が中心となって進めているつくばイノベーションアリーナ(以下「TIA」という)の事業の一環として行った。

研究の内容

 CNT粘弾性体は以下の手順で合成した(図1)。スパッタリングによりシリコン基板上に鉄触媒をつけ、その後アルゴンイオンによる反応性イオンエッチングによって触媒を調製した。この基板上にスーパーグロース法によってCNTを合成し、出来上がったCNT構造体を圧縮して密度を4倍にし、大きさをおよそ10 mm×10 mm×2 mm、密度を0.036 g/cm3とした。

CNT粘弾性体合成法模式図
図1 CNT粘弾性体合成法模式図

 作成したCNT粘弾性体に鉄球を落とし、衝突痕の形状をレーザー顕微鏡によって測定したところ、-196 ℃、25 ℃、1000 ℃で形状の変化がなかった。これは広い温度範囲で粘弾性を示すことを示唆している。

 粘弾性体としての性質を定量的に評価するため、動的粘弾性測定(DMA)法によって貯蔵弾性率、損失弾性率、損失正接を-140 ℃から600 ℃まで測定したところ、ほぼ一定であった(図2)。また、25 ℃で測定した応力・ひずみ曲線によって囲まれた面積はシリコンゴムよりも広く、より多くのエネルギーを吸収していた。

DMA法によって測定したCNT粘弾性体とシリコンゴムの損失弾性率、貯蔵弾性率、損失正接の温度依存性の図
図2 DMA法によって測定したCNT粘弾性体とシリコンゴムの損失弾性率、貯蔵弾性率、損失正接の温度依存性

 -140 ℃から600 ℃までの温度範囲で、振動数0.1 Hzから100 Hzまでの周波数依存性を測定したところ、温度にも周波数にも依存しない粘弾性が確認された。また、可逆的変形の臨界点である臨界ひずみは-140 ℃から600 ℃まで温度によらず5 %、室温での破断ひずみは約100 %であった。さらに-140 ℃、25 ℃、600 ℃で、このCNT粘弾性体に1 %の捻りひずみを繰り返し100万回加える耐久性試験を行った。その結果、各温度で耐久試験後も貯蔵弾性率、損失弾性率、損失正接に変化はなかった。

 このCNT粘弾性体が広い範囲で温度や周波数に依存しない粘弾性を示し、疲労耐性が強い原因は、長いCNTが絡み合い、密度の低いネットワーク構造を作っていることにあると考えられる。ひずみのエネルギーは、主にネットワーク構造内のCNT同士の交差部分が接触した状態から解離した状態に変化するときに吸収されると考えられる。吸収されたひずみは熱エネルギーに変換され、それが粘弾性体の中に蓄積されると性能が劣化する原因となるが、空隙率が高く、熱伝導率もよいCNT粘弾性体の場合は効率よく放熱されるため、安定した粘弾性を示すと考えられる。

25 ℃でのCNT粘弾性体100万回捻り歪み試験の結果の図
図3 25 ℃でのCNT粘弾性体100万回捻り歪み試験の結果

今後の予定

 今回開発したCNT構造体は、粘弾性材料として、将来、超低温や高温の環境下で、衝撃や振動などのエネルギーを吸収できる非常に軽量な材料として利用できる可能性がある。今後、経済産業省産業技術環境局の委託事業である「低炭素社会を実現する超軽量・高強度融合材料プロジェクト」において開発を推進するほか、試料の提供などを通じて、企業と協力し、用途開発につなげる。


用語の説明

◆カーボンナノチューブ(CNT:Carbon Nanotube
カーボンナノチューブは炭素原子のみからなり、直径が0.4~50 nm、長さがおよそ1~数10 µmの一次元性のナノ材料である。その化学構造はグラファイト層を丸めてつなぎ合わせたもので表され、層の数が1枚だけのものを単層カーボンナノチューブ、複数のものを多層カーボンナノチューブと呼ぶ。[参照元へ戻る]
◆スーパーグロース法
単層カーボンナノチューブの合成手法の一つである化学気相成長(CVD)法で、水分を極微量添加することにより、触媒の活性時間および活性度を大幅に改善した方法。従来の 500倍の長さに達する高効率成長、従来の2000倍の高純度単層カーボンナノチューブを合成することが可能である。さらに、配向性も高く、マクロ構造体も作製できる。[参照元へ戻る]
◆粘弾性、粘弾性体
「粘性(力を加えられると変形し、その力を取り除いても変形したままである性質)」と「弾性(力を加えられると変形するが、力を取り除くと元の形に戻る性質)」の両方を備えていること、および粘性と弾性の両方を示す物質。粘弾性体の例としてはゴム・プラスチック・タンパク質などがあげられる。[参照元へ戻る]

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